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「お前が信じる俺を信じろ!」の結果、名のない仕事ができた話

こんな“仕事”が成立するのか……と驚いた話をしたい。ライターの仕事は幅広いとは聞いていたけれど、本当に「機会の数だけ仕事はある」のだ。私はいまだに、この仕事に肩書きや名前をつけられずにいる。

「noteの連載を始めようと思ってて、タイトル何がいいと思います?」

ことの発端は、2022年の正月。取材相手だった前川裕奈さんにカフェで雑談混じりに相談されたことだった。以前にメディア記事で取材をさせてもらい、改めて別の記事のために取材をさせてもらったときだった。取材を終えたあと、本当に雑談で「今年はどんなことしたいですか〜?」みたいな感じだったと記憶している。

「アパレルブランドは引き続きやっていくのと同時に、私自身の経験やセルフラブについての発信をがんばっていきたいと思ってて。noteでのマガジンってどんな感じがいいと思います?」

もともと取材を通して裕奈さんの半生を聞いていたし、発信していきたい内容も把握していた私は、両腕のセーターの袖を肩まで捲り上げる勢いで「お任せをっ!」と前のめりになった。

褒められると木にも登るタイプの私は、頼りにされるとビルにも登れるような気がする。特に、ライターとして「文章や言葉まわり」は自分のアイデンティティにもなりつつあったために、「意図することが伝わる連載タイトルをつけたい」という相談には、なんとか力になりたい!と鼻息が荒くなったのである。

その場では決まらなかったものの、その後もMessengerでアイディアを出し合い、『#女戦士になりたかったわけじゃないのにね。』というタイトルが決まった。「女性の生きづらさ」を中心に発信していくため、女性が嫌でも戦わざるを得ない状況を「女戦士」と表現して、本当は戦いたいわけじゃないんだよ……というもどかしさまで上手く詰め込まれたタイトルだと、ふたりで納得したものになった(にっこり)。


納得したタイトルが出たことでメンツを保った私は、満足したまま春を迎えた。もちろん、この時点では仕事でもなく「ライターとして、友人の役に立てた」という自己肯定感のゆるやかな上昇を感じていたのだ。

が、大きな展開を迎えたのは春。裕奈さんから「noteに書こうと思っていた内容で本を出したいと思っている。もしよかったら相談相手になってくれないか」という、想像の斜め上の連絡をもらった。本を出すときの相談役…?私自身は本を出したこともないのに……??

正直、何を求められているのか、何をすればいいのかは未知数。私は未知数のものは苦手だ。わくわくよりも不安が勝ってしまう性格上、ビビり上がってしまう。が!「裕奈さんが大事な局面で私を頼ってくれている」という一点だけで、私は東京タワーにも登れそうな気がした。何ができるかはわからないが、裕奈さんが私を選んでくれているならきっと何かできることがあるはずだ。

「いいかシモン、自分を信じるな!俺を信じろ!お前を信じる俺を信じろ!!」である。(アニメ『天元突破グレンラガン』第1話より)


そこから、裕奈さんと私の二人三脚の本作りが始まった。出版社に提出する構成を一緒に作って、編集者さんとの打ち合わせにも「謎のポジションの女」として参加させてもらった。(心優しく受け入れてくださった編集者さんには本当に頭が上がらない)

裕奈さんを見ていると「自分のことを客観的に書く」というのが、一番難しいのだと思った。伝えたいことはあっても、どんな書き方が読者に届きやすいのかはわからないし、自分の人生が当たり前すぎて、他人にとってどんな部分がおもしろいのかもわからない。そこに私が横から「それめっちゃおもしろいです」とか「普通はこんなふうにできないと思う」とかいろいろ言わせてもらった。オンラインでつなぎながら細かい表現を議論しているうちに朝を迎えたこともある。

本を一冊書き上げるというのは本当に大変なことだ!としびれる経験だった。特に最後のほうは、必死に書き進める裕奈さんに「いけいけ!」「裕奈さんならできる!」「もうちょいですよ!」などと、ライターというより応援団のような気持ちでエールを送った。このポジションが、本を書く上で絶対に必要かと言えばそうではないと思うけれど、心が折れそうな時に相棒と呼べる存在がいることは、きっと少しは支えになったのではないかなと思っている。


裕奈さんが書いたものを、私が読ませてもらってコメントし、編集者さんが編集するという不可思議なトライアングル・ロードを繰り返して、2023年6月、ついに本が完成した。「本を作りたい」と相談をもらってから、紆余曲折、1年半が経っていた。

本の受け取りにも、変わらず「著者でもない謎の女」ポジションで同行させてもらった。編集者さんにも「まなさんがいて、とても助かりました」と温かい言葉をいただいて(きっとやりにくさもあっただろうに)、裕奈さんからも「これは『私たち』の本ですね」と言ってもらったときは、じわーっと身体が熱くなった。

完成した本を受け取った瞬間!


裕奈さんと打ち合わせを重ねて、セルフラブやルッキズムに関する情報を見つけたらシェアして、書いた文章を見せてもらって、私なりに本気でコメントを送る。この1年半、仕事仲間のような、伴走者のような、友人のような不思議な関係を続けながら、道中ずっと「こんな仕事があるのだな」とすごく不思議だった。

正直、すごく稼げるものでもないし、コスパもタイパもよくない。「仕事=稼ぎ方」という意味では、あんまり良いものではないのかもしれない。けれど「仕事=生き方」という意味では、この本作りは私の視点を大きく変えてくれた。

これまでも「こういうことできますか?」と言われて初めて「あ、できるかも?!」と仕事が増えてきたようなところがある。自分自身はまったく自信がないくせに、誰かのために「できます」と言える自分で在りたいという気持ちが止められない。次は、スカイツリーに登るのか、もしかしたらロケットで宇宙まで飛んでいくかもしれない。いつでも「宇宙、いけまーす!」と両腕の袖をまくれる自分でいたいものだなあ、と思う。


裕奈さんと作った本はこちら!

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