北野勇作「カーニバル・ゲート」
忙しい先生のための作品紹介。第49弾は……
北野勇作「カーニバル・ゲート」(『名作転生 脇役ロマンス』より 学研 2017年)
対応する教材 『羅生門』
ページ数 32ページ(P73~104)
原作・史実の忠実度 ★★☆☆☆
読みやすさ ★★★☆☆
図・絵の多さ ★☆☆☆☆
レベル ★★☆☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★☆☆☆
先生へのおすすめ度 ★★★☆☆
作品内容
本書は、さまざまな名作の脇役を主人公にして書き換えた、「奇想天外二次創作的短編小説集」。その中で今回紹介するのは『羅生門』を基に書かれた一作です。
人間とロボットが共存する時代、長年の戦争で瀕死になったロボットの「私」は大きな門の上層に逃げ込みます。そこには、「私」同様力尽きたロボットたちが山をなしていました。
そこで休んでいると、人間の女がやってきます。女は貧しさのあまり、ロボットを解体し、売れそうな部品を取り出していたのです。しばらくすると、今度はガンマンのようなロボットがやってきます。ガンマンは「私」の戦争の敵でしたが、とある取引を持ちかけてきました。
門の上で対峙する「私」、ガンマン、女。厳しい生存競争を生き抜くのは誰なのでしょうか。
おすすめポイント 死体が主人公の『羅生門』
本作は『羅生門』で門の上階に横たわる死体の1つが主人公として書かれており、老婆が女、下人がガンマンにあたります。
『羅生門』は、人間のエゴイズムを描いた作品として語られることが多いですが、特に次の2つのポイントが考えられます。それは、「悪事を働いた人には悪いことをしてもよい」というもの、そして「自分が生命の危機にある時は悪いことをしてもよい」というものです。
ここで言う「悪事」とは老婆が女の死体から髪を抜くことであり、「生命の危機」とは下人が飢死しそうであることです。ここからわかるように、老婆が下人に服を奪われる筋合いは本来ありません。
一方で本作は、「悪事」と「生命の危機」という枠組みを継承しつつも、人物同士の関係性がやや異なります。「私」とガンマンについて着目すると、次のように整理できます。
本作では、「悪事」はガンマンが「私」を騙すことであり、「生命の危機」も「私」がガンマンに殺されそうになることです。つまり、「私」にはガンマンに復讐をする正当な理由があることになります。
両者の違いを踏まえると、『羅生門』は人物関係が複雑になっていますが、本作ではそれが単純な復讐劇になっていることがわかります。本作を読んだ上で『羅生門』を読み返すと、『羅生門』の特殊性がよりはっきり見えてくるのではないでしょうか。
今回は「私」とガンマンの関係に着目した解釈を提示しましたが、他の人物から読み取れる解釈ももちろんあるでしょう。さまざまな人物に注目することで、本作の人物関係、ひいては『羅生門』の人物関係を新たな側面から捉えることができそうです。
活用方法
本作は、『羅生門』と物語の構造が似ているため、『羅生門』と合わせて生徒に読んでもらいたい作品です。先述の通り『羅生門』の特殊性を理解する足がかりとなるので、できれば『羅生門』の学習前に読んでおくとよいでしょう。
ただし、原作と人物関係が異なるため、逆に混乱させてしまう危険性もあります。それを避けるのであれば、授業では本作の発想を紹介するに留め、授業後に読むよう紹介するのが現実的かもしれません。
また、脇役に焦点を当てるという本書全体の発想は、授業で続編やスピンオフ作品を書く活動をする際にも応用できそうです。
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