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姜尚中『NHK「100分de名著」ブックス 夏目漱石 こころ』

忙しい先生のための作品紹介。第60弾は……

姜尚中『NHK「100分de名著」ブックス 夏目漱石 こころ』(NHK出版 2014年)

対応する教材    夏目漱石『こころ』
ページ数      160ページ
原作・史実の忠実度 ★★★★☆
読みやすさ     ★★★☆☆
レベル       ★★☆☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★☆☆☆
教員へのおすすめ度 ★★★★☆

作品内容

 本書は、NHKで2013年に放送された「NHK100分de名著」の「夏目漱石 こころ」の内容を加筆修正した5章構成の書籍です。夏目漱石の『こころ』に描かれた孤独、生と死、三角関係など、さまざまな観点からの解釈が丁寧に語られています。

 最終章「『心』を太くする力」は、『こころ』の記述や夏目漱石の人生を振り返りながら分析する第4章までとは少しテイストを変えた、本書のための書き下ろしです。最終章では、『こころ』とほぼ同時期にドイツの小説家トーマス・マンによって執筆された『魔の山』を取り上げ、「主人公の青年がよく似ている」と述べています。2作品の主人公の共通点を挙げた上で、移りゆく時代の中で生きた2人の主人公についての解釈が書かれています。

おすすめポイント 『こころ』の余白

 『こころ』は多くの人が知っている作品であると同時に、多くの解説本が出ています。教科書に掲載されている範囲は下巻の「先生と遺書」であり、特にその中の登場人物の「私」、K、お嬢さんの三角関係に注目が集まることが多いです。作品中にはKの死の理由は最後まで書かれておらず、単純な男女関係のもつれにも見える結末は、実は「先生」とKの恋愛関係に起因するだとか、孤独が関係あるだとかと分析がなされることもあります。

 名作と言われる『こころ』ですが、何がこんなにも多くの議論を巻き起こすほどに人々を魅了しているのでしょうか。本書の第三章では、上記の三角関係を取り上げた後に、このような記述があります。

漱石の小説は、このようにいくらでも多義的な読みを許すところに大きな特徴があります。(中略)どう分析しても、究極のところ人の心はわかりません。逆に言えば、暴こうとしても暴くことができないのが人間です。そんな人の心の不可思議を、漱石はこの小説で描こうとしたのかもしれません。
姜尚中『NHK「100分de名著」ブックス 夏目漱石 こころ』

 本書は、人の心と同じように、相手からは完全には見えない部分が小説の中に作り込まれているという考えを根底にしつつ、多様な視点から作品を切り取ることに成功した一冊だと言えるでしょう。

活用方法

 本書は、教員が授業準備のために用いる本としておすすめです。

 『こころ』の具体的な記述とともに解釈を読めるので内容面でも教材研究の参考になりますが、図や写真が充実していることも注目すべき点です。本書に掲載されている図や写真には、主要登場人物の相関図や、「『先生』と『私』の略年譜」、『先生』とKの下宿の間取り図、漱石の略年譜などがあります。学校では『こころ』の下巻のみを扱う先生がほとんどだと思いますが、その内容にも深く関わる図の数々が掲載されており、この一冊で授業で使いたい画像が手に入るよさがあります。

 また、章ごとにまとめられている注では、漱石の他の著書についての説明もあり、『こころ』を読むにあたって知っていると便利な作品の内容や用語を一緒に学ぶことができるのも嬉しいところです。

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