世界を変えることと私にできること
先日あるミュージシャンのライブに行ってきました。
その日の天気やら気分やらで、アドリブのように歌を紡ぐ彼女、アルバムにも収録されていなくて、時間が経つと曲も歌詞も忘れてしまうものも多いのが残念でならないのですが。
その日歌われた中の1曲に、少し前の作品から掘り出してきたというものがありました。
それは2011年に作られた歌で、「世界を変えたい」というような歌詞が含まれていたのですが、その後震災があったりして、何だか時代に合わなくなってしまったなと思って、彼女の中で封印していたそうなのです。それが最近思い出して歌ってみたら、言葉はつやつやしているし、今なら歌ってもいいかなと思えるようになったということで、その夜にも歌ってくれました。
「世界を変える」のは、必ずしも大それたことである必要はなくて、身近な種に水をやり芽を出させる、そんなことからでいいんじゃないか、という話もしてくれました。
震災があったあの年、自分の行いが果たして誰かの役に立っているのか、同じような思いを抱いて苦しんだ人が少なからずいたのではないでしょうか。
当時私は普通に会社勤めをしているOLでしたが、何だかそのままの環境に身を置き続けることが苦しくなって、翌2012年にまったくの異業種に転職をしました。
それが新たな苦しみの始まりとなり、また普通のOLに戻るまでに3年半の年月を費やしてしまうことになったのですが。
今はまた安穏と暮らす日々ですが、私は私にできることをやっていこう、それは恥ずかしいことではないんだと、寄り道したことで、ようやく自分を納得させられるようになりました。
そんな私の心に、彼女の歌と言葉はしみわたり、涙がぽろぽろとこぼれてきました。
震災から7年の月日が過ぎた今になって、自分がどれだけ不安だったのか、不意に気付かされるような出来事でした。
そのライブの翌々日です。
また急に思い立って、ボディワーク(マッサージ)の講習を受け始めた私。
1回目の講習は座学+自分の体を使っての実習でしたが、2回目のその日は、他の受講生とペアになって、お互いの体を差し出して実習を行いました。
あらためて考えてみると、私は自分に子供がいるわけでもなく、一人っ子なので甥や姪もいなくて、親も幸い元気なので介護や看護の経験もなく、これまでの人生で、他人様どころか、近しい人の体にすらがっつり触れるということをしたことがないのです。
私がペアを組むことになったのは、その日が初対面のSちゃんでした。
実習の一環とはいえ、施術台に横たわっている若く美しい女性に、そんなにべたべた触っちゃっていいの?という感じです。
初めての実習にして50分間という決して短くはない時間。
触れ方、進め方、自分自身の姿勢の取り方など、あらゆることに迷いと戸惑いがありますが、触れている先のSちゃんにそれが伝わらないようにすることに必死でした。
けれども、私の心配をよそに、Sちゃんはすやすやと寝息を立てて、安らかな眠りに落ちていったのです。
そして終わった後も、触れられているどこも気持ち良くて、腰の辺りが特に良かった!とありがたい感想を伝えてくれました。
人は触れたいし、触れられたいのだ。
初めての実感、すごくすごく特別な体験になりました。
Sちゃんとの物理的な距離の取り方を通して、私は、私自身の他者との距離の取り方を客観的に知ることができたのです。
私にとってもSちゃんにとっても、もっとお互いに無理なく心地良い距離があるはず。
ボディワークに限った話ではなく、私は、受け入れよう、受け止めようとしてくれているかもしれない相手に歩み寄ることが、たぶんとても下手なのです。
臆病で自信がなくて、何者にも向き合うことができない、それが私の本当の姿でした。
実習中に、同じように隣で施術をしていたSさん(Sちゃんとは別人です。紛らわしくてすみません。)が、鼻をかんでいるのが視界に入りました。
たいして気にも留めてもいなかったのですが、終わった後に「愛を感じた」と感想を伝えてくれて、その時もまだふーんという感じだったのですが、時間が経つにつれて、彼女が伝えようとしてくれたのは、きっと私が感じたのと同じようなことだったのだとわかるようになりました。
講師のYさんがまた素敵な人で。
「終わった後、みんなの顔がぴかぴかしてたね!」と言われたので、
「私もぴかぴかにできるように頑張ります!」と答えると、
「あなたもみんなをぴかぴかにしたのよ!」と仰ってくださいました。
私は、自分が誰かのためにできることなんて何ひとつないんだと、それはもう強く強く思いながらこれまで生きてきました。
そのことに疑問を持ちながら、それが悲しかったり歯がゆかったりして、「愛」についてずっと思考を巡らせてきました。
でも、その日に経験した、大それたことじゃない「私にできること」は、こんなにも私自身を優しく温かく満ち足りた気持ちにさせてくれました。
たぶん、こういう積み重ねを「愛」っていうんだ、そう思えました。
思いがけず足を踏み入れたボディワークというツールを通して、私はこれからたくさんの「愛」とかそれ以外のことも学んでいく。
今、ようやく入り口に立てたような気がしています。
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