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『レ・ミゼラブル』〜生き抜く覚悟、示す登場人物たち〜

2021年7月12日(月)に、東京丸の内にある帝国劇場に、ミュージカル『レ・ミゼラブル』を観に行った。『レ・ミゼラブル』はビクトール・ユゴーが1862年に書いた小説をミュージカル化した作品。ナポレオン1世没後1815年~1833年六月暴動後までの15年間が舞台となっており、1本のパンを盗んだことが原因で19年間投獄されていた男、ジャンバル・ジャンを主人公とし、その時代に生きていた人たちの姿が群像劇として描かれている。

今回の観劇は、2020年1月にミュージカル『アナスタシア』を見て以来の久しぶりの観劇だった。チケットの半券をスタッフの方に切ってもらう瞬間や開演前に家族とプログラムを見ながら歓談する瞬間が私は好きだった。しかしコロナ後の劇場は様変わりし、私の好きな瞬間は全て姿を消していた。半券は自分で切り、回収BOXに入れる。会場では私語厳禁で、スタッフの人が席を回り、感染対策を呼びかけていた。

そんな変わってしまった姿に寂しさを感じつつも、変わらずに聞こえてくる楽器のチューニングの音に心を躍らせ私は開演を待った。

オーケストラピットから不気味な低温が鳴り響き、舞台の幕が上がった。「ああ~ああ~」という叫び声のような歌声と共に、牢獄に収監され、奴隷と化している男性たちの姿がスポットライトで照らされた。彼らは、心の叫びを歌い上げていくが、その声は抑圧され、次第に力を失っていく。声を上げては弾圧される彼らの姿を繰り返し見るうちに、私は、多くの人が貧困やコレラ、そして閉塞した社会情勢に苦しむ物語の世界に引き込まれていった。

今回の舞台鑑賞を通して最も感じたもの。それは「どんな状況下でも信念を貫き、生き抜いてみせる」という登場人物たちの意思の強さだった。その意思の強さを最も感じたのが1幕のラストで「ワン・デイ・モア」をオールキャストで歌ったシーンだ。参考として、2017年公演の製作発表記者会見で披露された「ワン・デイ・モア」の映像を載せる。

「ワン・デイ・モア」では、ジャンバル・ジャンがわが子のように愛し、育てた孤児のコゼットが、彼女の恋人マリウスと共に「私は誓う、愛をあなたに」と愛を誓ったり、マリウスと共に革命に向け動く学生たちが、世界を勝ち取る為に旗を上げようと暴動を起こす覚悟の決意を歌ったりするなど、登場人物たちそれぞれが、革命前日の思いを歌い上げていく。舞台の至る所で、登場人物たちが自分の思い叫び、異なる歌詞が同時に歌われることも多々あるため、1度では見切れなかったと思うほどの迫力が舞台からあふれ出していた。そして最後、オールキャストで「明日にはわかる神の御心が」というフレーズを同時に歌うシーンで、コーラスは最高潮を迎える。このシーンでは、明日という1日の立ち位置は人によって異なり、また行動も人それぞれ異なる。しかし、それぞれの登場人物が、来る明日という日を、自分の信念を貫く為に生き抜いてみせると伝えようとしていると感じた。それぞれの登場人物の思いの強さに、気が付けば私は、ハンカチが手放せないほど涙を流していた。

そして私は登場人物たちの意思の強さ以外に、もう1つ舞台を見ていて感じたものがあった。それが『レ・ミゼラブル』の世界を演じる、出演者の「公演を届けたい」という思いの強さだ。プログラムに記載されていた出演者たちからの挨拶には、「コロナ禍という未曽有の危機の中だからこそ、多くの人たちに『レ・ミゼラブル』を届けたい。」といった趣旨のメッセージや「目の前の1公演を全力で挑みたい」という趣旨のメッセージが多く寄せられていた。そして彼らのそんな思いは、歌を歌う際の目の輝きや、出演者同士のふとした瞬間のアイコンタクト、仕草にも露われているように見えた。今、この瞬間に舞台に立てることの喜び、そして明日が分からないからこそ今目の前の公演を、目の前のシーンを全力で挑む、そんな彼らの覚悟が全身から滲みだしているように見え、その必死な姿に心が震えた。

私はエンターテイメント関連の企業で仕事をしており、コロナ禍であおりを喰らっている。
目標や夢も描きにくい状況が続いており、信念を貫くことが難しいと感じることも最近多々あり、落ち込んでいた。しかし過酷な状況下でも諦めず、自分の信じる道を進んでいく『レ・ミゼラブル』の登場人物たちの姿、そしてコロナ禍でも情熱を持ち、舞台に立ち続ける出演者の姿を見て、もう一度頑張ろうと前を向くことができた。

※『レ・ミゼラブル』福岡博多座公演は8月22日(日)午前時点で5名の新型コロナウイルス陽性反応が確認されたため、28日の千秋楽までの全ての公演の中止が発表された。
9月6日(月)からの大阪フェスティバルホール公演、9月28日(火)からのまつもと市民芸術館主ホール公演の上演は出演者、スタッフの体調を勘案して、追って発表とのこと。

出演者や関係者の皆さんが回復されること、そして劇場に歌声がもう一度響くことを願うばかりだ。

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