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言の葉ラジオ #1 引きの美学

時刻は24時。今宵もジャズ音楽にのせて深夜の語らいが始まる。

九条:「こんばんは。“言の葉ラジオ”パーソナリティの九条と」
私:「同じくパーソナリティの桃花(とうか)です!九条さん、秋深くなってきましたが、最近はどのように過ごされていますか?」
九条:「秋の夜長ですね。私はこの時期、専ら純文学が読みたくなるんですが、ここ最近は、桃花さんから勧められた『十角館の殺人』を読んでいるところですよ。」
私:「わあ!!あの本、読んでくれているんですね。嬉しいです。ミステリー好き界隈としては外せない小説なんですよ。」
九条:「ほぉ。いわゆる館シリーズというやつですよね。こういったシリーズ物は、やはり読者の心を掴むパワーのようなものがあるんでしょうね。他の作品も読みたいという、一種の追いかけのようなものが始まる。」
私:「んん、追いかけ、ですか。確かに私は一度気に入ったら全てコンプリートしたくなるかも。」
九条:「研究の道を行く者なら必要な探求心ですよ。それでは今夜もそんな探求心をくすぐる美学を考察していきましょう。」

私:「九条さん、私、最近友だちからミニマリストという言葉をよく聞くんですが、これって千利休の“わび・さび”に似ているところがあると思いませんか?」
九条:「具体的には?」
私:「わび・さびとは、質素なものに趣を感じ、時の経過とともにその表情を愛でることなどといわれていますが、ミニマリズムは、暮らす人にとって必要なものだけで生活をして、足りないものも補って生きていくという点や、完璧でなくてもよいという価値観が、まさにこの美学に近いと思うんです」
九条:「ふむ。“侘び・寂び”とは、“引きの美学”ですね。」
私:「引きの美学」
九条:「えぇ、“不足の美”といってもいいでしょう。千利休は、茶の道から、華美なものより“侘び・寂び”の不足しているものこそ美しいという価値観、美学を後世に提唱した人物です。時代背景も、戦国時代、高価な茶器や派手な演出こそが美しいと思われていた当時の価値観を、根底から覆したという観点からすれば、非常にイレギュラーな存在だったでしょうね。」
私:「人の暮らしは楽ではなかったでしょうし、だからこそ、質素で完璧でないものに美を見出した“わび・さび”の価値観は民衆に広がりやすかったということでしょうか。」
九条:「と、私は思うがね。」
私:「そういえば私、この前雑誌で、アメリカのテクノロジー企業では“ZEN(禅)”の思想がもてはやされているっていう記事を読みました。アメリカのビジネスマンが、休日にデジタルデトックスを取り入れているんですって。」
九条:「Apple創業者のスティーブ・ジョブズは、ボタンがどんどん増えていく携帯電話に、シンプルにボタンを一つだけにする方向に舵を切った。これもまた、利休の思想に近い美学だね。」
私:「ほんとだ。ということは、なんでも手に入る時代になっても求められている美学ですね。」
九条:「そうですね。」
私:「私、明日からまた月曜日で、いろいろ考えると頭が痛くなることもありますが、“引きの美学”をもって生きていくのも素敵ですね。」
九条:「私たちが生きているこの時代は、ある意味、逃げられない時代だと思う。だからこそ、あえて自分で、引きの美学を掴んでおくことは大事なんじゃないかな。」

私:「本日の“言の葉ラジオ”はいかがでしたでしょうか。次回はどういった美学の考察が生まれるのでしょうか。それではまた、素敵な深夜のお時間にお目にかかりましょうね!」


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