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Walkable city リサーチ ー「人も自然も豊かになっていくまち」のきっかけとして。

今年2月ごろから3ヶ月間に渡って、Walkable cityに関するシステミックデザインリサーチを友人のわんくんと実施しました。
システミックデザインリサーチに焦点を置いたインサイトについての彼の記事も是非読んでみてほしいです!

きっかけ

 私は大学で都市学を専攻して2年目で、学び始めた当初から持っている「人も自然も豊かになっていく街」という抽象的のビジョンの解像度を高めるとともに、現在のアカデミックの文脈に落とし込んで語れるようになりたいと常々思っていました。(今もその途中ですが)このリサーチを通して、最終的にそのビジョンに近づくための具体的なアプローチやツールを得たいという思いでリサーチに参加しました。

プロセスー具体と抽象、俯瞰と細部の往復

リサーチでは、自分達の関心や既に知っている事例を深掘りすることなどからスタートし、”Walkable city”に先立つ思想的なバックボーンを学ぶことからはじめました。
そして、”Walkable city” を構成する要素とそれぞれの関わり合いについて、また、”Walkable city” という概念をどのように定義できるかなどを話し合いつつ、事例を多数調べていきました。そのプロセスの中で構成要素が洗練されていき、最終的なWalkable cityの要素同士の連関の理解に繋がりました。

個人的には、ここまで帰納的なリサーチをするのが初めてだったので、リサーチの中での抽象と具体の行き来の仕方を学ぶことが多かったです。
Jane JacobsやCarlos Moreno(15分都市の考案者)などの思想的バックボーンを最初に学んだことで、比較的スムーズにリサーチが進みました。
非常に幅広いテーマだったので、何度か行き詰まることもありましたが、その度に根本的な問い(例えばWalkable cityとは何か)に立ち返って議論し、またリサーチに戻っていくことでアウトプットが洗練されていきました。

15分都市が最初に採択されたパリのイメージ図

特に一番時間をかけたのは事例集めでした。できるだけ世界の多様な地域から、多様なステークホルダーの取り組みを集め、インプット・その活動の本質・アウトプットの3つを見極めて分析しました。市民や行政の取り組みから鉄道会社の開発、スマートシティの取り組みまで、できるだけ幅広く都市に対するアプローチを集めたことで、それぞれの長所や欠点を理解し、どのようなアプローチが自分達の目指すWalkable cityに近づいていく方法なのかを考えるとともに、世界全体の都市の潮流を知ることができたと思います。

要素のつながりあいの理解

 自分はこれまで都市に対するアプローチをそれぞれ独立したものとして理解することが多く、例えば、緑地化は環境における文脈、公共交通機関は公共政策など、それぞれの分野内で考えることがほとんどでした。今回のリサーチではシステムマップを作ることで、一つひとつの取り組みについて分野を超えた理解ができました。緑地化は生物多様性の向上だけでなく、市民の健康度の向上にもつながるし、緑地周辺を歩く市民が増えれば、周辺の商店の売上も向上する。住みやすい地域になればエリアの価値も上がる、というようないくつもの分野を介する繋がりを俯瞰的に見ることができました。
また、要素の複雑な関連性についても学ぶことができました。Walkable cityに近づくためのアプローチとしての取り組みでは、全ての連関がプラスに働くわけではなく、一つの領域で効果を発揮しても、ネガティブな効果を生んでしまう側面があることに気づきました。例えば、緑地が増えると周辺の地価が上がり、ジェントリフィケーションに繋がってしまうことなどです。
このような一連のプロセスの中で、Walkable cityを構成する具体的なアプローチや概念などの要素のレイヤー、そして土地利用や市民と行政、およびビジネスのパワーバランスを理解することに繋がりました。

「歩けるまち」+「歩きたくなるまち」→ Walkable city 

Walkable city の定義 ベン図

このリサーチを通した最も大きな収穫の一つは、Walkable cityの大まかな定義付けができたことです。
街には、「歩けるまち」と「歩きたくなるまち」の二つを構成する要素があり、それらを掛け合わせたのが自分達の考えるWalkable cityだと気づいた瞬間は、パッと視界の霧が晴れた気がしました。
具体的に言えば、「歩きやすいまち」は公共交通機関が発達していたり、歩道が広かったり、緑地が多かったりなど、物理的に歩くことへの障害が少ない街のことです。一方「歩きたくなるまち」は、多様な属性の人が楽しむことができる多様なコンテンツが充実していて、賑わいが感じられる街です。この二つがかけ合わさることで、人々のウェルビーイングが担保され、生活を楽しめる街を作ることができると考えました。
これはもちろん、私たちにとって一番納得のいく定義ですが、Walkable cityの定義は発信者によって大きく異なることも、事例を調べる中で感じました。

他にもWalkable cityの解像度を上げるのに繋がったのは、「歩きたくなる街」を作る重要な要素の洗い出しができたことです。特にシステムマップの中で、他の要素との連関が多いものが、Walkable cityの鍵になります。例えば、「サードプレイスの形成」、「地域のオーナーシップ」、「行政と市民の対話機会」、「公衆衛生と快適度」などです。これらは多様な分野への波及効果があると同時に、他の要素との連関が多い分、取り組むのに時間とエネルギーが必要になると学びました。

また、「市民の主体性ループ」と称して、市民の主体性がまちづくりにおいてどのような好循環を作っていくのかを図式化し、市民の主体性を形成していく要素と相乗効果を紐解くことができました。

主体性ループ:地域で過ごす時間と、人々との出会いと関わりの多さが重要

普段の自分の関心範囲である、市民主導のボトムアップ型のアプローチだけではなく、それが行政の視点からどう映るのか、また行政が取ることのできるアプローチ(効果的な公共投資など)についても学ぶことができ、上からと下から両方のアプローチを大局的な視点から捉えられたことで新たな発見と学びが多くありました。

リサーチから波及してー「『歩くこと』とは?」「バンコクはウォーカブルか」

リサーチの途中から、テーマであるWalkable city にもある「歩く」ということの意味に興味を持ち始め、レベッカ・ソルニットの「歩くことの精神史」(英語:Wanderlust)を読むことにしました。「歩くこと」には聖地巡礼、プロテスト、登山、まちあるきなど歴史を通して様々な意味づけがされてきたことを知りました。また「歩く」ことには、五感を使って世界を感じ、世界とイマジネーション、そして自分の体をつなぐ役割があり、様々な哲学者、詩人、そして市井の人々も歩くことを通じて文化を作ってきたということも大きな発見でした。読み進めながら、「歩く」というシンプルな行為の意義深さに驚くばかりでした。また、通りは人々の偶然の出会いの場所であり、それが人々の社会性を作り、暮らしを豊かにしていくものだからこそ、人々が「歩く」ということは必要不可欠だ、という「歩くこと」の哲学的でより根本的な意義に気づくことができました。

6月にリサーチは一旦終了しましたが、私は6月中旬の10日間タイのバンコクと北部の都市であるチェンマイに滞在していました。
バンコクは経済成長真っ只中の活気溢れる都市で、地元の人たちがローカルな食べ物を売っているマーケットや、Siam Squareという広場での毎週末の中高生のバンド演奏など「歩きたくなる街」の要素をたくさん見つけました。バイクに屋台をくっつけた移動販売もたくさんあり、偶然出会い、興味を惹かれるものや人々に溢れていました。これらは全て、私の生まれ育った東京にはあまりないものたちでした。

中高生のバンド演奏。Siamは東京で言うと原宿。


一方、バンコクは「歩ける街」ではありませんでした。第一非常に蒸し暑くて長時間外に居られないし、横断歩道が掠れて見えづらくなっていたり、大きい道路の近くは非常に空気が悪かったりしました。また、公共交通機関でどこにでも行くことは難しく、タクシーや「トゥクトゥク」などを使わなければなりません。
バンコクの街での実際の経験を通して、Walkable cityの考えの基軸となっているのは西洋および既に経済的に成熟した都市のモデルだと気づきました。世界中の全ての街が欧米スタンダードのWalkable cityを実現するのは難しく、逆にDIYだらけで、偶発性や人々の生き抜く力に溢れている都市ならではの良さを捉えるモデルや考え方が生まれてきてもいいのではないかと感じました。


夕方はものすごい渋滞と排気ガス。

バンコクにはセブンイレブンの前に陣取るバイクの移動販売や、トラックの荷台を改装した乗合タクシーなど、ボトムアップ的な市民の工夫がたくさんあり、とても面白かったです。非西洋の都市でそれぞれの気候、自然、文化的背景に合わせて人々が住みやすく、健康で豊かに暮らせる街を作っていく難しさとポテンシャルの両方を感じました。

日本に戻ってからは、7、8月に「みちくさカフェ」と称して実家の近所の広場においてポップアップのカフェおよび青空児童館を1から企画、実施しました。実際にNPOや行政と協働するプロセスを体験し、またリサーチで学んだサードプレイスの波及効果や運営方法についても実地で学ぶことができ、Walkable cityへの道筋となる鍵の一つを見つけることができたと思います。
興味がある方はぜひ、開催後のレポートを読んでもらえると嬉しいです!

異なるレイヤーと視点を自在に行き来する

今後も、行動や自身の経験からインスピレーションを得ながら、経験と知識を編み合わせるようにリサーチを積み重ねていきたいなと思っています。また、これからは、まちづくりの文脈の中で様々なレイヤーやスケールの行き来ができるようになることを目指しています。特に自分はアクティビストのバックグラウンドがあり、リサーチ内容もおのずとそちらの視点に偏りがちなため、これからは設計者や政策決定者など、制度や都市の形を決めていく側の視点も身につけていきたいです。

都市のことは、勉強すればするほど色々な分野同士の繋がりが見えてきてとても面白いです。政治や経済学のように理論から現実を見るよりも、「実際に人々が交わる中で何が起きているのか」を観察してそれをベースに考える、人類学や民俗学(ethnography)的な視点が多く、人々の営みやニーズを鋭く見極める視点を得られていると感じます!
これからもアップデートしていきます。


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