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未完の傑作と未来の傑作:DUNEの何がすごいのか②

 Duneに興味を持ったのは未完となったアレハンドロ・ホドロフスキー版「Dune」のドキュメンタリーを見たことがキッカケである。脚本、絵コンテ、キャスティングまで決まり、すでに膨大な投資をしていたにも関わらず、撮影に至らなかった。しかし、これが後にいくつもの傑作SF映画を生み出すことになる。(小野堅太郎)

 1968年に「2001年宇宙の旅」といった非エンタメ芸術SF映画がヒットするぐらい、映画がまだ芸術として認知されていた1970年代。DUNE映画化権を獲得したフランスの会社が、何だかよくわからないが、なんか凄い芸術的なのだが滅茶苦茶チープでぶっ飛んだ映画を作るアレハンドロ・ホドロフスキー(当時46歳、90歳を超えた現在も活躍している)と組んだ。ホドロフスキーは情熱型反社会的芸術家である。その彼が、当時の芸術家たちを口説き回り、とんでもなく上質のクリエイターが集結した作品になる予定だった。顛末の詳細はドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」を観ていただきたい。

 衣装デザイン・絵コンテは、あのフランスのイラストレーター・漫画家(バンド・デシネ)のメビウスである。日本の漫画家たちが憧れたメビウスである。大友克洋と松本大洋の一連の漫画、宮﨑駿のナウシカの絵柄にメビウスの影響が見てとれる。

 特撮監督はダン・オバノンである。DUNE企画がポシャった失意から復活して、リドリー・スコット監督映画エイリアンの原案・脚本を担当し、後に小野の大好きな映画バタリアンを監督するその人である。

 DUNEの悪役ハルコンネン男爵の要塞デザインには、H・R・ギーガー。あのエイリアンのデザインを生み出したギーガーである。

 音楽は、ピンク・フロイドとマグマ。配役には、ハルコンネン男爵にオーソン・ウェルズ(映画監督)、皇帝役にサルバドール・ダリ(有名画家)など、とんでもない配役が予定されていた。

 残念ながらホドロフスキー版DUNEは企画倒れとなり、そのスタッフたちは散り散りとなる。しかし、「エイリアン」「スターウォーズ」といった後々の傑作SF映画の源流として機能します。個人的には、メビウスデザイン、ホドロフスキー脚本でホドロフスキー版DUNEを日本アニメ映画化してほしいです。ここ最近の日本アニメの演出が、尋常なくすごくなっているような気がします。

 この後、デビット・リンチ監督によるDUNE、アラン・スミシー名義のDUNE、ケーブルテレビ版DUNEと映像化されます。いずれも良い出来です。にもかかわらず、2021年、映画公開されました。監督はドゥニ・ヴィルヌーブ、哲学的SF映画を撮らせたら最高の映画監督です。正直、このDUNEは原作を研ぎ澄ました内容で、これまでのDUNE作品とは異なる、ワンランク上の哲学的DUNE世界を表現していると思います。

 SFマシン表現として、羽ばたきコプターがカッコよく表現されていたのが嬉しかったですが、原作ではあまり表現されない宇宙船を控えめにかつ壮大に描けているのに1番感動しました。まるで神の降臨のような感じです。また、超能力「ボイス」を使ったトリックがわかりやすく演出されていました。特に、未来予知に関する演出が自然に溶け込んでいて、これまでの映像化とは全く違う新鮮さがあります。全体的に「引きと寄りの映像の構図がカッコイイ」とか「音・音楽」など、映画館で見ないと味わえない迫力がいっぱいでした。

 まだ、DUNE第一部の前半までの内容です。おそらく敢えて、他の重要人物たちを登場させていません。アトレイデス家とハルコンネン家の争いだけで、「皇帝」も「トランスレーター」も匂わせ程度です。DUNEは政治闘争も読みどころなのですが、大事な冒頭のパーティーシーンは割愛されていました。ここはケーブルテレビ版では重要シーンとなっており、皇帝の娘が活躍するように脚色されています。もしかすると、ヴィルヌーブ監督はDUNEから政治闘争を外すのかもしれません。

 ヴィルヌーブ過去作品に共通するのは、母子関係です。DUNE原作では、主人公のポールは結構、母親をなじります。というのも、この母親、脈々と受け継がれる魔女軍団の一員で、アトレイデス家に送られ女の子を産むように言われていました。しかし、「自分が伝説の勇者を産むのだ」と先走って、男子ポールを出産します。そのため、ポールは未来が見えてしまうという苦難を背負うことになったわけです。成長して色々わかるようになったポールは、そんな母親のエゴな期待を憎むようになります。これまでのDUNE映像作品はここが描かれません。2021年Vol. 1のヴィルヌーブ版ではまだはっきりと出てきていませんが、つづきが楽しみです。

 ソラリスの流れからDUNEを解説しましたが、何でかというとDUNEの通貨単位が「ソラリス」となっているので、「あれ、なんか繋がってるのかな?」と思ったからです。しかし、DUNEはソラリスの英語訳の10年ほど前ですので、フランク・ハーバートが知っていたのかどうかは微妙です。ソラリスは「太陽」もしくは「陽光」という意味です。海外のページもかなり探しましたが、関連性を見つけることが出来ませんでした。ついでにわかったのは、「ソラリス」という暗号資産が取引されていているということでした。というわけで、ソラリスを映画化してほしいドゥニ・ヴィルヌーブ監督ということで、二作品を繋げた次第です。失礼しました。

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