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味覚障害の診断のための味覚検査法:九歯大生理学実習(味覚)

動画説明

 今回は味覚です。「秋の味覚」といえば、松茸、秋刀魚、サツマイモなど、一般的な味覚は食材全体からくる「味・風味」のことを指します。研究の世界で味覚というと、味だけで匂いは含みません。舌や軟口蓋に「味蕾」という細長い細胞がつぼみのように集まってできた構造物があります。そのつぼみの先端が口の中に突き出ており、そこに食材の味物質が唾液を介して結合することで味覚の引き金が引かれます。

 味蕾に集まった細胞を味細胞といいます。甘さを感じるもの、苦味を感じるものといったそれぞれに役割があり、接続した神経線維に情報が受け渡されます。それらの神経は脳幹(首の骨の中にある中枢神経系)の孤束核と呼ばれる領域に入り、シナプスを介して2次ニューロンに情報が受け渡されます。さらに、視床後内側腹側核小細胞でシナプスを形成し、大脳皮質味覚野(1次)に入ります。ここまでで、各種味の判別を行っていると考えられています。近傍の2次味覚野に入ると、匂い、色合い、食感、音などが合わさって「味覚」を感じるわけです。

 味蕾で受容される味物質(みぶっしつ)は、現在大きく5つに分類され、5基本味と呼ばれています。甘味、うま味、塩味、酸味、苦味です。小野が学生だった20年前はまだ「うま味」のない4基本味でした。うま味については、日本からの強い科学的主張によって加えられており、「味の素」で有名な「グルタミン酸」によるものです。ですので、英語でも「うま味」は「UMAMI」と表記されます(UMAMIはローマ字ですので、小野は英語発音では、ユメィミ、と聞こえます)。どんな受容体分子が関与しているかは、この20年間でかなり解明されています。迷走していた酸味受容分子として、ようやく最近、Otop1が最有力候補として報告されました。唾液もそうですが、味覚も研究の進歩が早いため、教科書の版が変わるたびに大きく変更が加わるので、教える方は大変です・・・。

 さて、全口腔法では、味の強さや種類について評価するのですが、実験すると人によってばらばらだということがわかります。正常値?なんてものがあるのかと、いつも思います。たまに、非常に低濃度で味を判断している学生さんもおり、「スーパーテイスターか?」となります(尋ねてみると、食生活はいたって普通です。)。1学年100人ほどいますので、2,3人はそういう人が出てきます。

 電気味覚検査法ですが、これは癌の手術などで味覚神経の傷害が疑われるような際に使われるものです。過去に1回だけ、本学の口腔外科の先生が装置を借りに来られたことがあります。20年で1回ですので、この検査を将来、本学の学生さんが使う可能性は低いでしょう。しかし、いざという時、この検査法を知っているか否か、使えるか否か、が大事であると考え、生理学実習にとりいれ、今回の手順動画の公開に至ったわけです。実習では、さわりの舌先端部の測定しか行いません。いつか必要なとき、小野に問い合わせてもらえればOKです!

追加・訂正

 昔、主に子供向けの科学記事や百科事典などに「味覚地図」なるものが掲載されていました。舌の先端で甘みを感じ、舌の奥で苦味を感じるというものです。現在この考え方はほぼ否定されています。残念ながら時々、この説が復活したりして科学界でも混乱が生じることがあります。大元の論文はヒトでの試験結果のようですので間違いとは言えませんが、かなり誤解を生むものです。皆さんご注意を。

編集者から

 とにかく、電気味覚法の手順が長く、編集しながら小野は2回程、寝てしまいました。どうしても端折れず、力尽きました。すみません。演出として、説明部分と実行部分を映像の色を変えて表現しました。わかりやすくなっていたかどうか、心配です。

 中富先生に被験者役をお願いしたのですが、本当に演技ができず、何度も撮りなおしをやりました。「血圧」の動画では、小野はきっちりサポートの演技ができており、自分の演技力に改めて感心しました。次回は、「咀嚼」ですが、ガチガチの演技の中富先生が出演していますので、皆さんお楽しみに!!


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