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ローマ字について

 ローマ字について日々思うアレコレをまとめてみたい。英語教育には最悪の存在だが、文字入力や学問には有用な存在である。ちょっと考察してみる。(小野堅太郎)

 そもそも「ローマ字」という日本語が多くの誤解を生んでいる。ローマ字として小学校で習う文字のA, B, Cなどは「ラテン文字(アルファベット)」である。「ローマ字」とは、ラテン文字による日本語の表記なので「ラテン文字化」であり、ツールとしての文字であって言語ではない。

 英語は、「ラテンアルファベット」を使った言語なので、英語を習う前に「ローマ字」で「あいうえお(a, i, u, e, o)」を習ってしまうと、子供たちが混乱してしまうに違いない。おバカ回答として「make」を「まけ」とか訳してしまう中学生答案がネットなどで晒されているが、英語訳としては間違いだが、「ローマ字」はちゃんと読めている。

 道路の標識には、地名がラテンアルファベットで表記されており、あれを多くの人は「英語で書いてある」と思っているが、日本語のラテン文字化である(厳密にはラテン文字化することにより外国語にしている)。そのため、外国人から道を聞かれても、発音が異なるのでどこのことを言っているのか全く分からない。ニューヨークに留学している時、ラーメン屋「一風堂」が大人気であった。日本人ということで一風堂について聞かれるのだが、アイパド(IPPUDO)と言われて初めは全く分からなかった。ローマ字では、音が伸びないし、「最後のuが省略」されるので、こんなことになる。

 同じことがパスポートでも起きている。「ラテンアルファベット」を用いない言語圏では、日本と同じような名前の「ラテン文字化」が共通して行われているようだ。そのため、外国人から本来の名前とは異なる発音で呼ばれてしまう。科学論文では、多くの日本語名は「ラテン文字化」されたものなので、時々「あらー」という英語読みになってしまうことがある。

 日本語では、外来語をカタカナで表記するが、そのカタカナを「ラテン文字化」したものが、巷の表記に溢れている。とあるレストラン内のCOFFEEと銘打ったマシンの抽出ボタンに「ORIJINARU BURENDO」と書かれていて一瞬混乱したが、「オリジナル ブレンド」の英語カタカナ表記の日本語をラテン文字化したものであった。英語とローマ字が混乱している。

 では、「ローマ字」教育はいらないかというと、そうではない。ローマ字のおかげでパソコンでの日本語キーボード入力は素晴らしい。生物の命名はラテン語で行われるので、歯学部では細菌名をローマ字読みでスラっといける。うーん、でもメリットはこれぐらいしか思いつかない・・・。日本語入力もフリック入力という「ローマ字」を必要としないものが普及している。若い人たちの入力スピードは、キーボードに匹敵する。オンライン授業になって、2000字のレポートをフリック入力でやっている学生は多い。生物の学名なんて、読む必要のある人は凄く限られている。

 江戸時代、前野良沢は「和蘭訳筌」(1788年)という蘭学入門書を書き残したが、そこにローマ字の解説があるらしい。ラテン語は中世ヨーロッパの科学・医学の公用語で、学問の基本です。ですので、当時の医学書の解剖用語を翻訳するには、ローマ字も学習も必要だったわけです。200年以上も前の話ですが。

 30年ほど前、九州歯科大学に入学した時、教養課程2年間でラテン語やドイツ語が必修だった。当時、何だこれは、必要なのか?!と思ったが、「解剖用語はラテン語だし、カルテにはドイツ語で記入するから」という理由だったと思う。しかし、時代は変わって、実際は解剖の試験も、カルテ記入も基本、日本語であった(当時、一部の口腔外科先生はカルテをドイツ語で書いていた)。昔はそうだった、ということである。現在はなくなっている。

 では、ラテン語やドイツ語が不要だったかといえば、「教養」として良かった(そもそも「教養課程」であった)。今は必要性の低い「漢字の書き順」「古文・漢文」も、小・中・高で習ったう「教養」として良かった。当然、同じく「ローマ字」も習ってよかった(看板が読める)。学ぶこと自体は、全く損はしていない

 要は、いつ学び、どのくらい深くやるか、というのを他の教科とバランスを取らなければいけない。ネットで調べてみたら、英語の授業で「ローマ字」を教えていることもあるらしい(一部の学校であると信じたい)。せめて「国語」の中でやるべきことである。できれば、英語授業で発音(フォニックス)を習った後がいいように思う。英語とローマ字を混同する教え方をしているならば、子供たちも混同してしまう。結果、英語教育が始まって、多くの子供たちが思わず「ローマ字読み」に引っかかって発音に苦しむことになる。英語とローマ字の社会必要性を考えると、英語の方が圧倒的に重要である。なんとか早期の改善を望む。

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