『大企業における新規事業』と『スタートアップ企業』の事業存続にかかわるリスク要因の違い②大企業編

前々回のコラムでは、事業存続にかかわるリスク要因というテーマでスタートアップ編を書きました。
今回は、大企業編を書いていきたいと思います。

前回の振り返り(スタートアップで特に生じやすいリスク要因)


まず、前々回の振り返りになりますが、大企業でもスタートアップでも新規事業であれば、安定している既存事業に比べたら、失敗する可能性が高く、事業存続が難しいことが多いです。

事業存続にかかわるリスク要因として、大企業とスタートアップ共通のリスク要因として2つあげました。

1.販売不振
2.製品・サービスの設計(デザイン)の失敗

次に、スタートアップで特に生じやすいリスク要因としては4つあげました。

1.資金不足
2.人材リソースの不足
3.品質トラブル
4.法令遵守に対する意識と体制整備
この4つのケースいずれにおいても、企業としての体力・基盤が整っていないことから発生する問題といえます。

これらの詳細については、前々回のコラムで記載しております。

大企業のリスク要因につながる「過去の成功体験からくる安定思考」と「しがらみ」


そして、今回の本題である大企業のリスク要因です。

これは、大きい括りで考えると、「過去の成功体験からくる安定思考としがらみにより、柔軟な行動や意思決定が難しい」ことから発生するリスク要因です。

この「成功体験からくる安定思考」と「しがらみ」の2つについてそれぞれ考えてみます。

まずは、1つ目の「成功体験からくる安定思考」についてです。
大企業は、必ず過去の成功体験があります。成功した結果、現在の売上や時価総額、利益などのポジションを達成しているものです。
成長スピードが高いタイミングで新規事業も並行して行う場合は別ですが、多くの大企業では成長スピードが鈍化し、事業も成熟しており、結果として安定的な思考になっていることが多いと考えられます。
成長スピードが鈍化した中でも、顧客ニーズや競争環境は常に変化していきます。成長スピードが鈍化した後は、市場が衰退して行く事が多いため、新規事業も模索する必要が生じてきます。

しかし、新規事業を推進する既存の従業員の多くは、成長スピードが鈍化した成熟市場でのビジネスが当たり前になっていることから、新たに事業を生み出すということが不得手なことが少なくありません。

不得手なだけならまだ良いですが、成功体験や大企業としてのプライドから、これまで行ってきたやり方が馴染んでおり、成功もしていることから、やり方や思考を変えてビジネスを展開することに抵抗してしまう気持ちがでてしまいます。
参考までに、これを心理学用語で、「現状維持バイアス」と呼びます。

過去の体験が邪魔をした結果、新規事業という新しい舞台で求められる行動や意思決定ができなくなってしまうという問題が発生します。

次に、2つ目の「しがらみ」についてです。

大企業となれば、従業員も何百、何千、何万といて、組織体制も複雑です。また、報酬や昇進などの評価制度も確立されており、大型の意思決定を行う際の承認プロセスも確立されています。
また、既存事業がある程度成功し安定していることから、既存顧客との関係性や企業としてのブランドイメージなど考慮しなければならない「しがらみ」が多数あります。

「成功体験からくる安定思考」「しがらみ」この2つの問題点を抱えながら、大企業という大きい組織の中で新規事業を推進しなければなりません。

新規事業を事業化し拡大していくうえでは、すべてを新規事業推進の当事者(自分)だけで行うことはできません。関係する他の部署に協力をしてもらいつつ、上層部から承認をもらい進める必要があります。

一から事業を作り上げる新規事業と安定事業とでは、従業員の行動や価値観に違いがでてきますし、その中で新規事業側の行動や価値観に合わせてもらいながら進めるのは難易度が高く、より一層の調整力が必要となります。


大企業の事業存続にかかわるリスク要因


今回のテーマは、「事業存続にかかわるリスク要因」です。この大企業の「成功体験からくる安定思考」と「しがらみ」からくる「事業存続にかかわるリスク要因」の多くは、「事業の立ち上げ段階」や「事業立ち上げ後比較的早い段階」で顕在化するものが多いです。

1.最適と考える戦略や戦術が「しがらみ」により取れないリスク
既存事業、顧客、企業ブランドなどへのデメリットを考えてしまうことから発生する問題です。例えば、高級路線の飲食店経営をしていると、既存事業のブランドイメージを気にして、大衆向けの飲食店出店がしづらいといったことがあります。また、新規事業が既存事業の顧客をターゲットにして展開する場合は、既存事業の顧客離れにつながらないようにすることも意識しなければなりません。

2.スピード感が求められる場面での意思決定が遅れるリスク
社内関係部署への協力の取り付けや大人数への承認の取り付けなどの意思決定をする場合、考えなければならないハードルが多々あります。関係者皆が同じ価値観を持っているわけではないので、関係者への説明のための資料作成などにも時間がとられ、稟議申請の承認や取締役会、経営会議などへの説明の時間や手間もかかります。

3.挑戦を受け入れる体制構築ができず、攻めた意思決定を行えないリスク安定事業を中心に行ってきた場合は、新規事業を評価することに慣れていないため、新規事業の推進が評価される評価体系になっていないことがあります。売上や利益、短期的な黒字化など短期的な視点の成果を求められるような評価体系になっている場合は、どうしても中長期的な視点で最適な意思決定が行いづらくなってしまいます。
この点については、前回のコラムで記載しております。


以上、大企業のリスク要因を3つ書いてきました。

大企業のリスク要因のほうがリスクレベルは小さい?

これまでお伝えした大企業特有のリスク要因は、理屈上スタートアップが抱えるリスク要因よりもリスクの程度は低いと考えられます。

スタートアップの場合は、どのリスク要因も解決の難易度が非常に高く、リスクを統制するためには、事業内容や経営者への圧倒的な魅力がないと解決は困難です。

対して、大企業は経営資源が豊富なため、解決手法としてとれる方法が様々あります。

子会社などの別会社で展開することで、既存事業への悪影響や承認を得るべきプロセスを減らしたり、新規事業向けのKPIを設計し評価制度を設けたり、とやれる手法はいろいろとあります。

ただ、子会社化して展開するメリットデメリットなどを考え出すと、大企業の「しがらみ」の影響により、取るべき最善の体制や方法が取れないといったことがあり、実態はなかなか上手いようにはいかないというのがあります。

まとめ

前々回と今回で新規事業の事業存続にかかわるリスク要因というテーマで書いてきました。

顧客ニーズにフィットして売上を拡大できるのかどうかという点は共通ですが、スタートアップの場合は、もろもろの経営資源が付いてこないリスク、守りの部分で足元をすくわれるリスクが大きく、大企業の場合は、過去の体験やしがらみが影響して、本当にやるべきだと思うことができなかったり、意思決定が遅れてしまったりなどのリスクがあります。
まとめると下記のようになります。

新規事業の成功確率はそもそも低く、難易度は高いですが、特徴を理解し、リスクヘッジを早い段階で行えば、成功確率は上げられますので参考になれば幸いです。

著:森本 晃弘NS.CPA

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