『大企業における新規事業』と『スタートアップ企業』の事業存続にかかわるリスク要因の違い①スタートアップ編

これまでのコラムでは、大企業が新しく新規事業を行うということを想定しつつ、コラムを記載してきました。

今回は『大企業が新規事業を行う場合』と『スタートアップが事業を始める場合』の2つのケースにおいて、事業失敗につながるリスク要因が異なるという点について書いていきます。

大企業・スタートアップ共通のリスク要因

まずは、大企業で新規事業を行っても、スタートアップで新規事業を行っても共通しているリスク要因です。

1.販売不振
まずは販売不振です。中小企業庁が発表している「倒産の状況」の倒産原因を見ると、大多数の倒産原因が販売不振になってます。

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出典:中小企業庁(倒産の状況より)


他のことをいくら工夫して対処しようが、販売不振に陥り、販売不振を解消できなければ、生き残るのは事実上困難といえます。
逆にいうと、資金的な問題やコスト過多の問題など様々な問題が発生したとしても、販売不振を解決できればなんとかできる可能性があります。
また、資金不足が原因で倒産しているケースの多くは、根本要因として販売不振が派生して資金不足に陥ってます。
販売不振は、大きな視点で考えると『ターゲット(顧客)設定』『価値(機能)設定』『強み(技術)の不足』といった戦略の失敗が原因となる場合と、『営業体制』『営業方法』『生産・開発体制』といった戦術レベルの失敗が原因となる場合があります。

2.製品・サービスの設計(デザイン)の失敗

販売不振と関連する部分がありますが、製品・サービスの設計(デザイン)の失敗です。これは、過去のコラムで書いてますが、新規事業の内容が先進的であればあるほど、顧客が求めるニーズとの乖離が発生する可能性が高く、乖離を解消できなければ、売れないし、成長しないので、事業は失敗に終わるということです。言い換えると、『ニーズや要望を読み間違えた』ということです。

この件については、下記の記事で詳しく記載してます。
新規事業に不可欠な仮説検証のプロセス
https://note.com/managementacc/n/nc1a29bdf728f?magazine_key=m227317d716e1

大企業、スタートアップ共通の失敗として2つ書きました。2つ目の内容は販売不振に集約される部分があるものの、意味合いが異なり、大事な部分なので、2つに分けてます。


スタートアップで特に生じやすいリスク要因

次にスタートアップで生じやすいリスク要因です。スタートアップ特有というほどではなく、大企業でも当然生じるリスク要因ではありますが、スタートアップのほうがリスクとして顕在化しやすく、事業の存続に影響する要因です。

1.資金不足
「黒字倒産」「勘定合って銭足らず」などとよく言われたりしますが、資金不足により、事業を継続出来ないケースです。スタートアップは、資金不足に陥った(陥りそうな)時は、多くのケースでは増資または借入という外部からの資金調達が必要となります。(一部のシリアルアントレプレナーの様に、過去に事業のバイアウトを行っており、個人で多額の資産を保有している場合は、自己資金で賄えるという例外ケースもありますが…)
対して、大企業は、内部(他の事業の利益)から調達できるという違いがあります。
いずれのケースにおいても資金を補填するだけの価値があるかどうかというのは評価されますが、多くのケースでは「内部」からのほうが調達しやすいです。特に、急に資金が必要になった場合にこの傾向は顕著で、内部調達のほうが行いやすいのが一般的です。したがって、資金不足による事業失敗を防ぐためには、スタートアップの方がより資金繰りを入念に管理し、注意する必要があります。

2.人材リソースの不足
事業を拡大する場合、当然人材を増やしていかなければなりません。事業拡大のチャンスがある場合でも、例えば営業人材や開発人材が不足していてはチャンスを生かすことができず、チャンスを逸してしまいますので適正な人材の確保は非常に大事です。
しかし、優秀な人材を採用しようにも応募がほとんどなかったり、条件が合わなかったりして採用できないということがよくあります。
採用できない場合は、既存の社員の負荷がより高まります。その結果、開発であれば開発品質、営業であれば営業品質の劣化が生じますし、既存の社員の士気低下につながり退職を助長しかねません。
優秀な人材を採用しようと思うと、相応の報酬や自社や自社サービスへの魅力が必要です。資金調達が容易で優秀な人材を高額の報酬で次々と採用できるメガベンチャーの場合は話が別ですが、一般的なスタートアップでは、非常に対処が難しく、1人の優秀なキーマンの離脱から、組織崩壊につながり、対処不能に陥るリスクがあります。

対して大企業の場合は、人材がどうしても足りない場合などは新規事業部隊のみではなく、会社全体(グループ全体)で対処を考えることが可能です。事業の魅力があり、成長可能性が高い新規事業という認識を会社全体で共通して持ってもらう必要はありますが、新規事業部隊とは別な人材を追加配置することで、対処できる可能性があるという点がスタートアップとの違いです。
スタートアップの場合は、資金的な余裕が無いことが多く、将来を見越して余裕を持って採用しておくというのは難しいのが実態ですが、事業計画に基づき将来必要な人材を事前に定めたうえで、もしもに対処できるようにリクルートに関する情報発信や情報収集は継続して行うことが大事です。

3.品質トラブル
どんな事業であろうと一定程度以上の品質レベルを確保・維持は必須かと思います。この、品質レベルの確保・維持ということが、スタートアップは難しい場合があります。

「2.人材リソースの不足」に近しい部分がありますが、様々な関係する専門領域について、専門家を揃えきる体力がないというのが理由です。

例として、SaaS系サービスを挙げます。
SaaS系サービスでは、プログラムやデータベースの問題、ネットワーク面の問題など様々な理由により、不具合や通信障害が起こりえます。そのうえで、致命的な不具合や通信障害といったリスクが起こる可能性もあります。
これらのトラブルが発生した場合に、手に負えるトラブルかどうかという問題です。
ただでさえ、スタートアップの場合はギリギリの人材で運営してます。スキルや経験豊富な優秀な人材を採用したり、外部のコンサルを導入したりということができればよいですが、資金や業績の問題でそうもいかないケースもあります。
何とか社内にいる人材だけで対処していき、問題を1つずつ潰していったとしても根本的な問題の解決には至らず、ということも考えられます。この場合は、1つの問題点に対処しても、すぐに次の問題が顕在化し、もぐらたたきのようになってしまいます。その中で、対処しきれない問題が発生してしまうとどうしようもありません。

対して、大企業が新規事業を行う場合は、会社全体の中で関連するノウハウや経験を保持していることがあります。したがって、どうしても新規事業に関わる人材だけで対処できない場合は、他事業も含めた会社全体の経営資源を踏まえての対処ということができます。
スタートアップでも、リスクの発生可能性や発生した場合の影響度などをマネジメントしながら、大事故が起こらないように、必要な人材の確保や外部アドバイザーの活用をしつつ、必要な投資も行うなどの対応策は必要です。


4.法令遵守に対する意識と体制整備
企業運営していくうえでは、守らなければならない法令やルールがたくさんあります。経営者がこれらすべてを網羅的に理解することは困難ですので、他の役員や従業員とともに対応する必要があります。また、売上拡大、業績拡大を重視するあまり法令遵守に対する意識が疎かになってしまい、知らずに法令違反を犯してしまうということも企業経営上のリスクとして懸念があります。法令違反を犯してしまうと、取引先などのステークホルダーや社会からの信頼を失い、企業活動を継続するのが難しくなります。
代表的なリスクでいうと、労働基準法、労働安全衛生法、景品表示法、税法(法人税、消費税、印紙税、所得税など)、個人情報保護法などの法令違反や助成金の不正受給、著作権侵害、許認可の未取得などが該当します。
これだけ守らなければならい法令やルールがあると、そもそも「知らなかった」という可能性がありますが、「知らなかった」では済まないものも多く、しっかりと対応する必要があります。顧問弁護士や顧問税理士などに相談するというのはもちろん大事ですが、すべての取引事例や企業活動についてすべて外部の専門家が関与するわけではありませんので、社内での理解や知識蓄積も必要です。
この点について、大企業であればそもそもガバナンスや内部統制が整備されており、その基準にのっとり新規事業も運営することが求められることから、法令・ルールに準拠した運営が必然的に行われます。また、監視や監査等が行われることから法令・ルールに逸脱している可能性がないか調べられ、改善等も必要になります。
したがって、大企業であれば、法令遵守観点でのリスクは一定程度軽減される様な組織設計がなされています。一方で、スタートアップでは、同じような土台を持っていないことが多いため、リスク要因となります。そのため、ある程度余裕が見えてきた段階で経験や知識を持ったCFOや管理本部長等の人材を強化する必要があります。

まとめ


以上今回は、新規事業のリスク要因というテーマで特にスタートアップに起こりやすいリスクというテーマを書いていきました。
大企業が行う新規事業の場合に、これらのリスクがすべて対処できているというわけではないですし、千差万別ですが、一般的にはこういった傾向が強いだろうと考えます。

ただし、大企業の新規事業についても様々なリスクや問題点はあります。こちらについても、今後記載していきたいと思います。


著:森本 晃弘NS.CPA

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