新規事業のアイデア絞込を行う「9」の視点

量産したアイデアの中でどのアイデアを具現化すべきか

前回アイデア量産の方法を説明しました。アイデアを出すタイミングでは、実現可能性や市場性などはあまり考慮せず可能性があるものをひたすら列挙していきます。
今回は、列挙したアイデアの中で具体的にどのアイデアの詳細を検討していくかを絞り込む手法について紹介します。

ケースによっては、100以上のアイデアが出ているケースもあるでしょうし、そうでなくてもアイデアを量産するフェーズを通過したのであれば、数十のアイデアは出ているかなと思います。

これらのアイデアすべてについて実現性や顧客価値、マネタイズ手法など検討していては時間がいくらあっても足りません。したがって、まずは、ざっくりとした内容でいくつかに絞込をする必要があります。

絞込をするうえで、この段階で1つにまで絞り込む必要はありませんが、だいたい2~5ぐらいの数まで絞り込む必要があります。そのうえで、次フェーズのブラッシュアップで詳細を検討し、1つに絞り込んでいくというイメージです。

しかし、どのように絞り込みをしていけばよいかイメージが湧かず悩まれることも多いのではないでしょうか。そこで、絞り込みの切り口について、大分類として5つの視点、細分化して9つの視点でご紹介します。

(1)市場に魅力があるか(①市場規模、②市場成長性、③競争環境)

まずは、市場の魅力です。市場に魅力が無ければ参入しても成果を出すのは不可能といっても過言ではないので、非常に大事な視点です。
ここを3つの軸で考えます。
①市場成長性
現在の市場はプロダクトライフサイクルでいうところの、創出市場、成長市場、成熟市場、衰退市場のいずれに該当するのかという視点です。後述する競争環境、本質価値、シナジーなどがよっぽど有利であるケースを除き、基本的には創出市場、成長市場のどちらかである必要があります。
②最大市場規模
市場規模の分析です。ここは、現状の市場規模というよりも、市場が拡大した場合に想定される最大市場規模という考えです。
顧客数や想定される販売価格等を時間をかけず概算で算定しどの程度の市場規模が見込まれるのかを計算します。(ご参考までに、これをフェルミ推定と言います。)投資額や目標売上高などにもよりますが、この数値が数十億円規模レベル以下なのであれば、なかなか事業としてスケールするのは難しいでしょう。
③競争環境
市場成長性や市場規模と相関性が高い項目ではありますが、競争環境の視点も見ていきます。現在の競争企業は強いのか弱いのか、そもそも存在しないのか。これらの視点でざっくりとみていきます。


(2)想定されるコストはどの程度か(④イニシャルコスト、⑤ランニングコスト)

アイデアを実現するためのコストはどのぐらいかかるのかという視点です。細かくこの段階で調べる必要はありませんが、簡単にどのぐらいコストがかかるのかという仮説を立てます。
例えば、売上1億円の企業で新規事業を検討するうえで、設備投資が100億かかるような事業はできません。自社でとりえる事業なのかを把握するために、イニシャルコスト、ランニングコスト各々の視点で100万円程度、1,000万円程度、1億円程度、10億円など仮説をたてていきます。コストを区分する範囲は企業の状況、想定する事業内容により異なりますので、自分たちが妥当と思う区分を判断してもらえばよいと思います。

図1


(3)顧客にとってどれだけの価値を提供できるのか(⑥本質価値、⑦表面価値)

新規事業として提供するサービスや製品が顧客に価値があって、顧客ニーズにマッチしたものとなりえるかを考えます。想いばかりが先行し、顧客にとって本当に価値があるものになっているかどうか、ここが置き去りになってしまっては顧客に受け入れられないからです。

価値には2つの軸があると考えています。
1つ目は、真の価値(本質価値)があるかどうかです。BtoBを例にした場合、真の価値とは「売上UPに貢献」「業務効率化(コスト削減)に貢献」のどちらかです。この場合は、顧客の最終的な利益UPにどれほど貢献できるのかを数値化して分析し、顧客にとっての費用対効果がどれほどなのかを検討します。この数値は、根拠と共に説明できることが大事です。
2つ目は、表面価値です。ここでいう表面価値とは、顧客に対してわかりやすく費用対効果を説明してくれる機能です。真の価値が顧客に簡単に伝わると良いのですが、実情としてはなかなか伝わりません。
類似品が存在する場合は、比較的簡単に説明出来るので表面価値は高いのですが、真の価値が高いかどうかを比較されることになります。一方で、類似品が存在しない場合は、真の価値の説明が難しく表面価値が低い傾向にあります。この様に、真の価値と表面価値には、一定程度はトレードオフの関係にあります。また、革新的な製品・サービスの問題の一つに、顧客への良さの伝わりにくさがあります。そのため、製品・サービスの良さを説明するのに時間がかかってしまい、製品・サービスがスケールできないというケースを見かけることが多いです。


(4)自社での実現可能性どうか(⑧シナジー)

自社で抱えているノウハウや設備、人材、資金力で対応可能な領域か、既存事業の売上・利益のUPに貢献する事業であるか、自社の保有する資源を活用することで新規事業の売上・利益獲得の成功可能性が大きく高まるのかを判断していきます。
具体的には、シナジーの種類で考えるとわかりやすいです。

図2


(5)やりたいかどうかという強い想いがあるか(⑨意気込み)

最後に、そもそもやりたいかどうかです。これまでは、やりたいかどうかという視点よりもやれるかどうか、やるべきかどうという視点で考えてきました。
しかし、やれたとしてもやりたくないビジネスであれば、自分自身や関係者のモチベーションも上がりませんし、顧客に対して提供できる価値も高まらないと思いますので、この視点も考慮しましょう。


9つの視点の結果をどのように判断するか

以上合計で9つの視点を紹介いたしました。判断軸が9つだと多く感じるかもしれません。この場合に、最終的にはどのように判断すべきかわかりにくい部分があると思います。そこで、これらの視点をトータルで判断するために1つのフレームワークを作成してみました。

図3

この内容は、出したアイデアを9つの視点で評価をして、合計点が高かったものをアイデアとして残し、次フェーズであるブラッシュアップに進めるというのもです。
評価点数は、各視点ともベースは10点としつつ、重視したい視点や重視する必要がない視点がある場合は、係数として調整することで自由に評価点数を変更することが可能です。
それぞれの点数付けについて、時間をかけずに簡単に判断をしていくのが大事です。アイデア絞り込みの段階では、統計データなど細かく集めに行くフェーズではないので、それぞれ簡単に仮説を立てて判断をしていき、次のフェーズであるブラッシュアップにつなげていきましょう。

著:森本晃弘NS.CPA

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