見出し画像

カスタマージャーニーマップとは?~顧客の心理と行動を見える化しよう~

 「カスタマージャーニーマップ」は現代のマーケティング戦略を考える上でかなり有効なツールであり、コロナ禍における顧客の心理・行動変化への対応策を考える上でも有効だと思います。
 しかし、カスタマージャーニーマップの認知度は依然どして低いままです。そこで今回はカスタマージャーニーマップの概要や関係性、効果等について書きたいと思います。


人は課題を解決するために商品を買っている

 前回の投稿「人はなぜ商品を買う?」では、クリステンセン氏の著書「ジョブ理論」に引用しながら、人は非理想的な状態(不満や不安、不便といった状態)と理想的な状態(満足、安心、便利といった状態)とのギャップ(課題)を解決する手段として商品を買っていると説明しました。

 つまり、枕が欲しい人であれば、本当に求めているのは枕そのものではなく、安眠や肩こりのない生活などであり、枕はその解決手段として買われているということです。(下図参照)

ジョブ

 当たり前のように聞こえるでしょうがこの気づきは大変重要です。なぜなら、前回紹介したミルクシェイクの事例にもあったように、顧客が解決したい課題を知らずに改良しても効果が表れにくいからです。

 よって、顧客が解決したい課題を明確にした上で、顧客に自社商品の存在を知ってもらい、いくつもの競合商品の中から自社商品を選んでもらい、買ってもらわなければ売上になりません。

 顧客が解決したい課題を企業側が理解するだけでなく、顧客が商品の価値を理解して買いたくなる設計が必要で、そのために有効なツールが「カスタマージャーニーマップ」なのです。

 そして、ジョブ理論とカスタマージャーニーマップを組み合わせてマーケティング戦略を考えると顧客に対する理解度が深まり、強力なマーケティングツールになるのです。

ジョブ×CJM

カスタマージャーニーマップとは?

 カスタマージャーニーマップは、顧客の購買行動を旅に見立てて、顧客の行動や感情を可視化するためのツールです。顧客が商品に関心をもち、他商品と比較し、購入し、使用し、評価するといったフェーズごとに顧客の行動の他、ポジティブ・ネガティブな感情等を顧客視点で言語化していきます。

 カスタマージャーニーマップは、比較的新しいツールで大企業やネット関連事業者などでは活用されているのを知ることがありますが、中小・小規模事業者においては「カスタマージャーニーマップ」という名前すら聞いたことない人がほとんどですし、支援機関等もほぼ同様かと思います。

 下図は「初めてのカスタマージャーニーマップワークショップ」(翔泳社)に掲載されている様式をベースに私が仕事用にアレンジして使っているカスタマージャーニーマップのフォームイメージです。

カスタマージャーニーマップフォーム

 複数人で考えを出し合いながらカスタマージャーニーマップを作成することで、自分だけでは気づかなかった行動や感情、購買を阻害する要因、購入に至るために改善すべきポイントが見えてきます。(可能であれば実際の顧客やターゲットにヒアリングを行うことをお勧めします。)

 また、それを社内で共有できるのも大きな利点です。作ったことがある人ならきっとお分かりだと思いますが、お客さんがスムースに購入に至り、満足してもらうために改善すべき課題は意外と多いことに気づきます。

 当然ですが、マーケティング戦略は売る前から完ぺきということはありません。実際に販売してみて仮説を検証し、改善を加えながら戦略をより良いものにすることが重要ですので、カスタマージャーニーマップは改善し続けるものとしてご認識ください。

カスタマージャーニーマップが重要となっている背景

 近年は自社商品等を通じた顧客の体験・経験をより良いものにして、いかにして自社・自社商品のファンになってもらうかということに注目が集まっており、それを手助けするツールとしてカスタマージャーニーマップが活用され始めていますが、その背景には以下のようなものがあると私は考えています。

①競争相手の増加
 スマホでいつでもどこからでも商品を購入できたり、業界の垣根が低くなってきている
②商品だけでの競争優位性の維持が困難
 競合が多く、キャッチアップスピードも速いので開発した商品そのものだけでの競争優位性が維持しにくい
③商品に対する顧客の知識量の増加
 商品を購入するうえでのポイントや評価がネットで簡単に分かり、優劣の差が出やすい

 ところで、「良いものを作りさえすれば売れる」という発想は80年代までは通用したかもしれませんが、24時間いつでもどこからでもスマホで商品を買える(ライバルが常に顧客のスマホの中にいる)今の時代においては期待する結果を得られないと思います。

 中小企業経営者の高齢化が全国的に進んでおり、IT化や現代的なマーケティング手法に乗り遅れている感は否めません。そして、近年は「労働生産性の向上」や「DX」が叫ばれていますが、何をどのように手をつければよいか分からないという声もよく聞かれます。

 zoomを使えばDXとなるのではなく、時代の変化に合った価値を創造し、その価値を消費者へ提供して喜んでもらうことが重要です。それを助けてくれるのもカスタマージャーニーマップなのです。

カスタマージャーニーマップによる効果

 カスタマージャーニーマップを活用することの効果には、以下のようなものがあります。

①事前に問題を取り除ける
 新商品を販売する前などにカスタマージャーニーマップを作成することで、何かしらの課題を抱えるターゲットがどのように商品を検索→比較→購入し、その過程でどのような不満を抱いたり、何が購入の決め手となるのか仮説を立てることで、事前に解決すべき課題と改善策を検討できます。

 また、フェーズごとに数値目標を記入すると売上が予想できます。売上が足りない場合は、どのフェーズの数値を向上させれば達成できるかも逆算もできます。例えば小売店なら、入店客数や入店後の購買客数、購買点数、購買単価などを向上させることで目標売上を達成できるかを検討できますし、それを向上させるために必要な対策も検討できます。

②問題箇所が特定しやすい
 ①で立てた各フェーズごとに数値目標を立て、実績値と比較することで問題個所を特定しやすくなります。そもそも来店客が少ないなら、広告媒体を変えたり、追加する必要があるかもしれません、そもそも広告のインパクトや雰囲気を変更することだけで視認率を向上させ、目標来店客数を達成できるかもしれません。

③組織能力を向上させやすい
 カスタマージャーニーマップは、顧客の行動、感情を見える化することで購買に結びつく重要なポイントを共有できますので、暗黙知を形式知化でき、組織能力の向上につながるはずです。

 なお、年配の方にもカスタマージャーニーマップをワークショップ形式で取り組んでもらったことがありますが、インプット一辺倒の座学ではなく、アウトプットが主体なのでこれまでにない気づきが得られ新鮮だったし、楽しかったと言われました。世代をあまり気にせず取り組めるツールのようです。

カスタマージャーニーマップのテンプレート

 カスタマージャーニーマップの詳しい作成方法は優れたWebサイトがたくさんありますのでここでは省かせていただきますが、私が普段一人でカスタマージャーニーマップを作るときの自作テンプレート(EXCEL)を一応ダウンロードできるようにしておきますので必要な方はご自由にお使いください。ちなみに、優れたデザインのテンプレートはネット上にたくさんあります。

下図はテンプレートのイメージです。

カスタマージャーニーマップ

 前回紹介したジョブ理論をベースにしたフレームワークのフォーマットも入っています。(下図)

提供価値検討シート

 このテンプレートの特徴は、一般的な項目(行動、感情、タッチポイント、課題、対応策)に加えて、「KPI・数値目標」を記入できるようにしています。この数値目標がポイントで、試しに数値目標を入れてみると努力すべきポイントが見えてきます。「来店してからの購入率を上げる必要がある。どうすればいい?」「買い上げ点数を増やさないと目標売上を達成できない!」といった具体的な課題が見えてきますので、必ず数値目標を立ててみてください。

 また、普通のカスタマージャーニーマップは、ペルソナ(ターゲットの詳細な人物像)を明確に設定したうえで取り組むべきと解説されていますが、私は顧客が解決したい課題と解決した後の状態だけを明確にしています。

 その理由は、「ジョブ理論」のミルクシェイクの事例から得たヒントなのですが、朝の通勤時にミルクシェイクを買う顧客は、性別や年代に特別な共通点がなかったという事実と解決すべき顧客の課題が見えないとムダな改良になりうるということに基づきます。顧客の解決すべき課題を明確にすることがまずは重要であり、逆に性別や年齢を絞り込むと間違った固定観念により価値のある発想を阻害する気もするからです。

まとめ

・顧客は課題を解決するために商品を買っている
・競争が激化しており、いい商品を作っただけで売れるとは限らない
・顧客の購買行動・心理を理解・設計することが重要
・カスタマー-ジャーニーマップの効果
 効果① 事前に問題を取り除ける
 効果② 問題箇所が特定しやすい
 効果③ 組織能力を向上させやすい
・フェーズごとに数値目標を設定すると重要ポイントがわかりやすい


 最後に、私が参考にしているカスタマージャーニーマップの解説本を紹介しておきます。カスタマージャーニーショップの進め方や事例が載っているので参考になります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?