僕はもう二度と、自分の味覚を信じない
今年のホワイトデーの話。
例によって仕事でご一緒させていただいていた女性のみなさんにチョコをお渡しした。今回選んだのは、リンツのリンドール。
お店に行くと、鮮やかな黄緑色のパッケージが目に飛び込んできた。
「お、マスカット味あるやん!珍しいな!」
すぐにそれに決めて、ついでに自分のぶんも購入(笑)。
そして当日。
「これ、ホワイトデーのチョコです。マスカット味って珍しいなーと思って、これにしました♪」
「ありがとうございます!……でもこれ、抹茶って書いてますよ?」
「え?抹茶?そんなバカ…………ホンマや」
「いや、抹茶も美味しいから好きですけど(笑)」
「マジで?僕きのう、普通にマスカットと思って、家で食べたんですけど……」
思い込みというのは本当に恐ろしい。
「マスカット味だ」と思って食べると、抹茶味でさえマスカット味に感じてしまうのだ!
……いや、今思うと、確かにちょっとだけ「謎の苦み」があった気がするけれども。
しかしあの鮮やかな黄緑色は、どう見ても抹茶というよりマスカットだろう。
そう言えば、夜店のかき氷のシロップは、いちご味も、メロン味も、どれも実は同じ味だという話を聞いたことがある。香りと色の違いで、僕たちは「違う味だ」と感違いしてしまうというのだ。
もしかして、このチョコも同じ技を使っているのか?
チョコを渡した女性にその話をしたら、
「そんなわけないじゃないですか」
と一蹴された。
「じゃあ、これ一個食べてみたらどうですか?」
と、チョコをひとつくれた。
さっそく口に入れてみた。
抹茶の風味が、やさしく口の中に広がった。
「……ホンマや」
僕はもう二度と、自分の味覚を信じない。そう思った。
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