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時間が止まった瞬間

コロナのおかげで、人生の時間が止まったようになってしまっている人もいるのではないでしょうか。

誰もが経験していることだと思いますが、人間はあまりに衝撃的な出来事が起こると、まるで時間が止まったように感じます。

僕の場合、「時間が止まった瞬間」と言ったときにまず思い出すのは、「ドラクエIII」での悲劇的なエピソードです。

ドラクエIIIといえば、言わずとしれたファミコンの名作RPG。当時小学4年生ぐらいだった僕は、みんなと同じように予約してすぐに購入。おそらく全国でも屈指のやり込みプレイヤーにまで成長したのでした。

ドラクエIIIが画期的だったのは「セーブシステム」。それまでは、ゲームの続きをするときには「ふっかつのじゅもん」と呼ばれる50文字ものパスワードを入力する必要がありました。まあこれが間違える間違える……(笑)。

せっかくいいところまで進んだのに、ふっかつのじゅもんを間違えて書き写してしまい、二度と冒険に戻れなくなった勇者たちは数知れません。現在のようにパソコンでコピペ……なんてことができない時代、僕らはせっせと紙にえんぴつで書き写していたのです。

そんな僕らを歓喜させたのが、ドラクエIIIのセーブシステムでした。ゲームの中で「ぼうけんのしょ」に記録しておけば、自動的に現在の状態が保存され、次回はパスワードを入力することなく、冒険の続きを始められるようになったのです。

ところが、同時に別の問題も発生しました。この「ぼうけんのしょ」と呼ばれるセーブが、突然消えてしまうことがあるのです。これはどうすることもできません。

ゲームの電源を入れた瞬間、呪いがかかった時の音楽とともに、「おきのどくですが ぼうけんのしょ1は きえてしまいました」のメッセージが出てきた時は、本当に心臓が止まるくらいびっくりし、悲しかったことを覚えています。

この時も一瞬時間が止まりますが、僕が経験した「時間が止まった瞬間」は、さらに過酷なものでした。

「ぼうけんのしょ」は、3つまで作ることができます。セーブが消えてしまうことに備えて、その3つをフルに使うのです。

具体的には、「ぼうけんのしょ1」でゲームを進めたら、それを「ぼうけんのしょ2」と「ぼうけんのしょ3」にコピーする。そしてまた「ぼうけんのしょ1」でゲームを進めたら、「ぼうけんのしょ2」と「ぼうけんのしょ3」を消して、そこに「ぼうけんのしょ1」をコピーしておく……という具合です。

悲劇は突然やってきました。いつものようにウキウキしながらテレビの前に座り、リズミカルに「ぼうけんのしょ2」と「ぼうけんのしょ3」を消去します。そして「ぼうけんのしょ1」をそこにコピーする……のが正しい手順です。

ところが、その時は「ぼうけんのしょ2」「ぼうけんのしょ3」を消したリズムのまま、手が勝手に動いて、「ぼうけんのしょ1」まで自分で消してしまったのです。

これまでの冒険の記録が、全て消え去ってしまいました。いや、自ら消し去ってしまいました。すでにレベル20くらいまで行っていて、これからダーマの神殿で転職するぜ……!というくらいのタイミング。感覚的には、一週間やってきた仕事が、全て無駄になったような感じでしょうか。

「………………」

完全に時間が止まった瞬間でした。

セーブが消えてしまった時の「呪い」の音楽も流れない。「おきのどくですが……」というメッセージも表示されない。真っ暗な画面に「ぼうけんのしょをつくる」の文字だけが並んでいる。

自分でやったことなので、誰を責めることもできません。自分のこの手で、これまでの冒険の記録を全て葬り去ってしまったわけです。

まさに自業自得。でも僕はふたたび「ぼうけんのしょをつくる」をクリックし、新たに冒険を始め、やがて無事に世界を救ったのでした。

いやあ、あの時は本当に辛かった……。

これが、「時間が止まった瞬間」と言ったときに、僕が一番最初に思い出すエピソードです。

ついでに言うと、僕は、兄貴がやっていた「ファイナルファンタジーⅣ」のセーブデータも消してしまったことがあります。しかも、ラスボス直前まで進んでいたやつです。この時も誤って自分の手で消してしまった気がします。

「めちゃめちゃ怒られる……。いや、殺されるかも……」

と思いつつも、思い切って兄貴に正直に言い、謝りました。そうしたら意外にも、「ほんまか……。まあ、しゃーないな。これから気をつけろよ」と言って許してくれたのです!僕が弟にセーブを消されたら、絶対に大激怒まちがいナシです。

「神なのかな?」と思ったことは言うまでもありません。

それ以降、僕は「ウチの兄貴は世界一やさしい」と公言してはばかりません。今でもそう思っています。

止まった時間を再び動かしてくれるのは、勇気とやさしさなのかもしれません。


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