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【振り返り】ボ教概論Ⅰのつくり方かた⑥個別ゲーム分析

こんにちは。ボドパパです。

前回はボードゲーム教育における「場の作用」についてその議論の過程と中身をご説明しました。

今回は、「個別のボードゲーム」それぞれにおける学びの要素を分析するにあたり、どんなページレイアウトにするのか、その構成を決める際の議論をご説明します。

どんなページレイアウトにするかを考える、という事はつまりボードゲームの学びの要素をどのような角度から分析するかを考える事になります。

早速、結果はこちら。

ボ教概論Ⅰ「本書の使い方」

私たちボ教協は個別のボードゲームの学びの要素ページを構成する要素を、

  • ゲームの概要

    • インスト時間

    • プレイ時間

    • 片付け時間

  • 学びのツボ

  • 進行度別の学びの要素

  • 習熟段階別の学びの要素

  • 学びの実践上の準備・工夫

  • ゲームの成立が難しい学習者のためのプレステップ

  • 習熟度が高い学習者のためのネクストステップ

と定義しました。

この最終形になるまで何度レイアウトを見直したことか…。
その試行錯誤を公開します。

学びの要素とボードゲームの結びつきの軸

一番最初に議論したのは、分析の軸について。

メンバー全員の頭の中に、学びの要素とボードゲームを紐付ける何らかの「」が存在する予感がありました。

一旦、概念的に、抽象的に「こういう軸があるのでは?」という議論をしたのですがめっちゃ難しく難航…

やはり具体的にボードゲームを分析する中で軸が見えてくるのではないかという事になり、試しに1つ分析してみることに。

掲載が決定しているボードゲームの中で、ルールや要素のボリュームが多めの「ドミニオン」でそれを試してみることになりました。

懐かしのCanvaホワイトボード

Web会議でホワイトボードを使いながら、メンバーの頭の中にあるものを見えるか・言語化していく作業です。

そして、この工程の中で「進行度」と「習熟度」の軸を発見することになります。

上記の議論の中で、ゲームの特性ごとにページレイアウトを変更する可能性も検討しました。
例えばワンナイト人狼の、人狼側と村人側、のような役割が存在するゲームはその役割ごとに書くとか、プレイヤーの想定される行動に紐付く学びの要素を書き出してみるとか、ですね。
ただ、一回試したのですが、ボードゲームごとにレイアウトが変わるのは読者にとっては読みづらいことを合意し、紙面の軸をすべてのゲームで統一することになったんですね。

進行度別学びの要素を1ページで表現、習熟度別学びの要素を1ページで表現するという大枠をこの時点で決めました。

なお、進行度が無い(または極端に小さい、薄い)ボードゲームは当然存在し、そのボードゲームのページ割は習熟度別の1ページのみで表現することにしました。

進行度別の学びの要素

進行度別は基本的に序盤、中盤、終盤の3区分を利用することになりました。

カタンの進行度別の学びの要素

進行度を3区分に分けることで、その場面で獲得・発揮しやすい学びの要素を表現できます。そうすると、教育実践者の方にとっては学びの意図やねらいを進行度別のどの場面に適応できるかを想定できるという事です。

また、実践者の方が何らかの理由でボードゲーム教育を他者に説明する場面があったとき(例えば学校の教員の方がボードゲーム教育を導入したいと考え、上長に許可をもらう必要があるときなど)、場面ごとの学びの要素がその具体例として示しやすいとも考えています。

尚、ボードゲームによっては3区分ではなく前半、後半などの区分の方が適切な場合はあるため、その区分は可変できることとしました。

習熟度別の学びの要素

習熟度は、当初は初級者、中級者、上級者という区分で捉え、議論を勧めました。が、問題発生。メンバーお互いの初級のイメージ、上級のイメージがかみ合いません。

ここで改めて「ボードゲーム教育における学習者の到達点」という議論が沸き起こります。私たちはボードゲーム教育を受けた子ども達にどうなってほしいのか。

特に上級者とは何なのか、という事を中心に議論しました。
結果、私たちの中でのボードゲーム教育を受けた子どもの到達点は「大人と対等」であることとしました。

ボードゲームには当然「競技性」を求めることはできるし、教育においては一つのことを突き詰め、努力する姿勢を培うことは当然含まれることなんだと思います。しかしボードゲーム教育の大きな特徴である、色々なボードゲームを沢山遊ぶ「多様な体験」に注目し、ある程度のところまで到達したら違うボードゲームを体験してほしい、と考えた結果が「大人と対等」という結論に至った理由です。

学びのツボとは?

ボードゲームの学びのツボ by Copilot

さて、学びの要素の整理の軸が決まりました。
ここで私たちは、今後のボードゲーム教育実践者の立場を想像します。

きっと「こういう学びをしてほしいから、このボードゲームにする」という選択をし、カリキュラムを構成するケースが多々ありそう…だと考えました。

その際、上記の進行度別、習熟度別の学びの要素の整理に加えて、そのサマリになりうるものがあった方がいいという事になりました。

それが学びのツボです。

学びのツボは、特に何の学びに使えるのか?という事を3行で示します

例えばカタンの学びのツボは、

・選択肢それぞれの期待値を計算し意思決定できる
自分にとっても相手にとっても有利な交渉を行うことができる
運によって変化する結果を受け入れつつ最善を尽くすことができる

という感じで、カタンを遊ぶ体験の中で、特にカタンならではである学びの要素を「~~できる」という動詞で表現しているんですね。

更に、ボードゲームの体験の中にとどまる表現ではなく、その学びをより一般化して表現することで、学習者の未来にどのように寄与するか、行動が変容するかを示しています。

ちなみにこれは現メンバーである松本さんが外部レビューしてくれた時に指摘して修正を図った大切な概念です(松本さんサイコー!)。
ボ教概論Ⅰの「はじめに」で語られている「未来を生き抜く力を培うのがボードゲーム教育」だとすれば、学習者がボードゲームで得た学びをボードゲームではない他の場でも再現できることを学びのツボで示すことにしたんです。

実際に個別のボードゲームを分析する際には、進行度別と習熟度別の学びの要素を洗い出し、その後学びのツボは何かな?という目線で決定していくプロセスをたどりました。

学びのツボが、ボードゲーム教育実践者の方にとってボードゲームを一覧的にみる際の道しるべになることを願っています。

学びの実践上の準備・工夫

さて、ここまで「学びの要素」に注目してページレイアウトを検討していました。

ボ教概論Ⅰは、理論も大切にしつつ実践知も大切にしているのが特徴です。

この「学びの実践上の準備と工夫」は、ボードゲーム教育を実践するにあたりそのゲームならではの準備しておくべきことや、工夫できることを示し、より学びが深まる環境を整えることをお伝えする項目として非常に重要視して作りました。

カタンの学びの実践上の準備・工夫

この準備や工夫は時間軸で表現できます。

プレイ前に準備、プレイ中やプレイ後に工夫できる、という3区分です。

尚、個別のゲームの分析を進めていく中で気づいたことなのですが、個別のボードゲームで言及すべき準備や工夫と、ボードゲーム教育全般における準備や工夫があることが分かりました。

個別のボードゲームのルールやコンポーネントに依存しそうな準備や工夫はそれぞれのボードゲームのページで示し、
ボードゲーム教育全般における準備や工夫だと判断した場合はそれをすべて集めて別にページをつくることになりました。

ボードゲーム教育実践者である財津、伊與田、坪内3名の実践知の結晶ともいえる情報がここに集まっています。ぜひ参考にしてもらいたいパーツです。

私はボードゲーム教育実践者ではありませんが、父親として子ども達とボードゲームを遊ぶ際、この準備と工夫が大いに役立っています。感謝。

ちなみに、ここでの準備や工夫が本来のルールに則っていない場合がある際に、どのように示せばいいのかも大きな議論になりました。
ゲームデザイナーやパブリッシャーの方々が意図しないルール改変により、遊び感が変化してしまうリスクのある準備や工夫。
でもボードゲームで得られる学びを最大化する可能性がある。。。

その両方のバランスを鑑みて「!で示した箇所は教育効果の向上や実践運営のしやすさを考慮した提案です。公式のルールや進行と異なります。」と示すことで読者のご判断に任せつつ、公式ルールとは違う箇所を明示することにしたんです。

プレステップとネクストステップ

ボードゲームのネクストステップ by Copilot 違う意味になってるw

対象のボードゲームを子どもが遊んだ際に、こういうニーズがありそうだ、という事で追加した項目です。
「ちょっと難しくてできないので、似た遊び感で学びの要素が関係しているちょうどいいゲームが知りたい」
「大人と同等レベルに到達したので、次におススメのゲームが知りたい」

このような声にお応えしたいと思い、

  • ゲームの成立が難しい学習者のためのプレステップ
    ゲームのメカニクスは似通っており、ルールが比較的簡素で学習者の負荷が少ないタイトルを選定。対象のゲームをプレイするにあたり、ルール理解などで困難が予想される場合に前段階として推奨するゲーム。

  • 習熟度が高い学習者のためのネクストステップ
    大人と対等レベルの習熟度に至った学習者に対しておすすめのゲーム。プレイ時間、ゲーム内の情報量などの負荷が高いタイトルや、異なる学びの要素が付加されているタイトルを選定。

をページ下のコラム的に差し込む案が採用されました。

ちなみに…プレステップは初期は「前提となるゲーム」というラベリングだったんですが、この表現だと「前にやっておかなければならない」ことを暗に示すことになります。それは本意ではない…。
ネクストステップと対になるような表現として、もし対象のボードゲームの成立が難しいようならばこちらのゲームがお勧めというニュアンスを「プレ」という表現に込めました。

ちなみに私激推しのトランプゲーム(ボ教概論で異色)がザ・クルーのネクストステップに採用されています。ぜひチェックしてください。

ボードゲーム教育の「時間」を考える

ページ構成の冒頭の項目もかなり頭をひねりました。

時間についてです。

通常ボードゲームで「時間」というとプレイ時間のことを指すと思います。

ただ、ボードゲーム教育という観点で時間を考えると、通常のボドゲ会とは異なり、授業には必ず時間割が存在し、ある一定時間内にカリキュラムを納める必要が出てきます。

普通に遊ぶときよりも、時間管理がシビアになるという事ですね。

なので、ボ教概論Ⅰでは時間の項目を三つ設けています。

  • インスト時間

  • プレイ時間

  • 片付け時間

ボ教概論Ⅰでは、これらの目安時間を示します。
更に教育実践者の経験知に基づき独自に設定しており、公式のプレイ時間と異なる時間を設定しています。

この表記時間を参考いただいて、実践者の方が自身のカリキュラムに合わせたボードゲームを選択していただければ嬉しいです。


ここまで、ボ教概論Ⅰの本編部分にあたる「個別のボードゲームのページ」のレイアウトの構成の検討経緯と、その意図をご説明しました。

長かった…。4500字…。

制作時間の累計

最後に、このレイアウトの構成確定にたどり着き、その後個別のボードゲームの分析を完了するまでどれくらいかかったのかを振り返りたいと思います。

実際、ページレイアウトが決定するまでに11回の打ち合わせを実施しました。一回の打ち合わせは2時間程度なのでここまでで22時間。

個別のボードゲームは16種あるので、それぞれ大体1回の打ち合わせで実施し、32時間。

計54時間かかっています。

しかもこの作業は4人で行いましたので、延べ200時間以上かかっていることになります。今考えるとヤバイ…。

それくらいの情熱を注いで作った個別のボードゲームのページ、ぜひご覧いただきたく思っています!

ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。

WRITTEN BY

ボドパパ
日本ボードゲーム教育協会所属。流通小売&ITデジタル会社の社長秘書です。ボードゲームと家族が大好きな父親です。
息子(5)と娘(2)の子育て真っ最中。
ボードゲームを子育てにどう活かすか、に興味があります。
好きなボドゲは「魔法にかかったみたい」
https://twitter.com/bodopapa

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