ショートストーリー 「光の向こう」

開けてはならないドアがある。
そのドアノブはとても冷たい。
でもその冷たさがいっそう
開けたくなる衝動に走らせる。
頭では「開けるな」と声がする。
心では「開けろ」と声がする。
古く分厚い木のドア。
鍵穴がある…。
鍵が掛かっているかもしれない。
鍵が掛かっていればドアは開かない。
だったらドアノブを回しても大丈夫だ。
でももし鍵が掛かっていなくて
ドアが開いたら…。
どうなる?
開けはならないドアがある。
なつかしさのある木の匂いのドア。
ふと視界に人の影が入り込む。
その影の持ち主がドアノブを回し入っていく。
ドアの隙間から白とも黄色とも
言えぬ光が散らばる。
その光とともにそのドアも影の持ち主も
瞬きをしている間に消えていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?