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“伝え方の「具体化」、行動の「習慣化」”【書評】 石田淳著:無くならないミスの無くし方

石田淳著の『無くならないミスの無くし方』は、仕事や日常生活におけるミスを減らすための実践的な手法を提供してくれる一冊でしたので紹介いたします。

私は、医療の国家資格を持ち、約21年間病院勤務していました。
様々な検査や治療に携わるだけでなく、リスクマネージャーとして部署や病院全体の医療安全にも取り組んでいました。命を預かる病院。病院でのミスは命にかかわります。
「医療事故防止のために、自分自身の知識と経験を深める必要がある」と医療安全やリスクマネジメントに関する様々な本を読んできました。

医療の現場から離れて10年経ちますが、医療安全やリスクマネジメントの知識や経験は、全ての仕事に役立つと実感しています。

そんな中、病院と違い、命に直結しない仕事に携わっている方々の、「ミス」に対する危機感のなさを実感する出来事がありました。

命に直結しなくても、確実に「信用」と「信頼」は一瞬で失います。
その小さなミスの繰り返しが大きな事故に繋がることもあります。

それは、本人だけでなく、多くの方々、そして社会にも影響がでてくることでしょう。

では、その本人に、そしてその上司にも危機感を醸成するには、どうしたらいいのか?
ミスを無くすための行動をしてもらうには、どうしたらいいのか?
そう考えた時に出逢ったのが、本書でした。

読むのをオススメするのは、経営層、管理職、プロジェクトマネジャー等ですが、子育てや教育にも役立つと思います。

この本を読み進める中で、私が特に学びになったポイントをいくつかご紹介します。

まず、著者が強調するのは「教える内容を具体的に分ける」ことの重要性です。知識と技術という二つの要素に分け、それぞれに適した教え方をすることで、受け手がより理解しやすくなります。例えば、単なる「作業手順」や「規則」を教えるのではなく、それが「聞かれたら答えられること」(知識)なのか、「やろうとすればできること」(技術)なのかを明確にすることで、より効果的な教育が可能になると感じました。

次に、曖昧な表現を具体的な言葉に変えることの重要性も学びました。例えば、「最後にしっかりと確認する」という指示を、「炊飯器の内釜に計量カップで米を3杯入れ、3回水を入れ替えて洗う」という具体的な手順に分解することで、受け手にとっての誤解が減り、ミスが防げるのです。私たちが常識と思っていることでも、他人にとっては未知の作業である可能性があるため、具体化することで理解を深めることが大切です。

また、習慣化の重要性についても本書は詳しく述べています。ミスを減らすためには「継続の仕方」を知らなければなりません。習慣とは、ある行動が「しなければならないこと」から「しないと違和感を覚えること」へと変わり、最終的には「自然にやっていること」になるまでのプロセスです。例えば、行動を褒めて「メリットのあるもの」に変えることで、習慣化を促進することができます。

さらに、本書で紹介されている「SMORS」(Safety, Measured, Observable, Reliable, Specific)という考え方は、行動を明確にする上で非常に有用です。特に、「誰が見ても、何をどうしているかが明確である」という点を強調することで、チーム全体での共通理解を築くことができます。

最後に、本書はPDCAサイクルを回し続けるための環境整備の重要性も説いています。ミスを減らすための行動は、簡単で習慣化しやすいものでなければなりません。ピンポイント行動を設定し、それが「すぐに記憶できる」「誰でも同じ解釈ができる」「日々繰り返しできる」「既存の行動習慣を大幅に変えない」ものであるかを検証することが、成功への鍵となります。

現代の多くの職場では、ミスが起こるたびにその原因を探り、再発防止策を講じることが一般的です。しかし、そもそもミスを起こさないために必要な「危機感」を持つことが欠かせません。本書では、単にミスを防ぐ方法だけでなく、ミスを防ぐための心構え、すなわち「危機感を持つことの重要性」についても言及しています。

危機感を持つことで、日常の些細な行動や判断にも意識が向き、ミスを未然に防ぐための意識が高まります。例えば、医療現場ではミスが命に直結するため、スタッフ一人ひとりが常に高い危機感を持ち、日々の業務に取り組んでいます。この意識が、結果的に医療の質を向上させ、安全な医療を提供することにつながっています。

しかし、命に直結しない職場でも、この「危機感」を醸成することが重要です。ミスはたとえ小さなものであっても、信用や信頼を一瞬で失う可能性があります。そして、その影響は個人だけでなく、チームや会社全体、さらには社会にまで及ぶことがあります。だからこそ、私たちはミスを軽視せず、常に高い意識を持ち続けることが求められます。

本書を通じて、この危機感を持つことの重要性を再認識し、具体的な行動に結びつけることができると思いました。

この本を紹介することで、少しでもお役に立てれば幸いです。


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