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冬の啼き声、季節を「渡る」旅人。

宮城県、伊豆沼。

遠く北の大地から渡ってきた鳥たちは、
長い雪が催花雨に変わる頃までしばし、
この沼辺で冬をやり過ごす。

果てしない距離を旅してきた群々。
彼らは毎朝、日が昇るとともに、
けたたましい啼き声とともに飛び立って、
周囲の刈田へと散っていく。

思い思いに落ち籾をついばんだ鳥たちが、
日暮れとともにまたねぐらへと戻ってきて、
茜色の空が漆黒に染まりきっても、
辺り一帯に完全な静寂が訪れることはない。

何万もの鳥たちが放つその声は、
目を閉じればたちまち、不快な騒音として耳をつんざくけれど、
沼のほとりで寒風にじっと耐えながら、
群集の羽ばたく様を無心で眺めつつ聴くその音は、
なぜだか不思議と、心地良ささえ感じてしまう。

それはここが鳥たちだけでなく、私たちにとっても、
旅の果てに辿り着く「羽休めの地」であるからだろうか。

季節を「渡る」旅人が見せてくれる、
「うるさい」けれど「穏やか」な風景が、ここにはある。

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