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《栗ごはん、学.》

 台所にただよう甘い香り。それに手応えを感じたのは、初めて「栗ごはん」をつくったからだった。

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 ことの始まりは、数日前。九月九日が「重陽(ちょうよう)の節句」であることを知った。90代の祖母、60代の母と暮らしているせいか、この日をお祝いしないわけにはいかない気持ちにさせられる。

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 ”大人のひな祭り”のようなこの節句では、菊酒や栗ごはんで長寿や無病息災をお祈りするのだ。菊はお花を飾ることにして、栗の美味しい季節だからごはんを炊くことにきめた。

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 買ってきた生の栗をさっと洗う。それを熱めのお風呂くらいのお湯に15分浸す。栗のおしりの部分を5mmほど切り落とし、殻をむく。ここまでは案外簡単だった。ところが、このあとに難関が待っていた。

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 絶妙に固い生の栗。その皮を綺麗にむくというのは、かなりの手間がかかる。さらに、包丁を研いでのぞまなかったから、余計に苦労した。自分をうらむ。こういう作業のときには、これからは前もって研いでおこうと心に誓った。そして、マロングラッセや、栗の甘露煮をぱくぱくと食べていた自分もまたうらめしく思えた。この大変な工程を経て、まだその先にもそれは続いてようやくあのお菓子ができるのかと思うと、宝石のように愛でて、口にできる感動とともにいただかなくては、とあれこれ反省しながらした皮むきが終わったのは、一時間半後だった。

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 もち米とお塩を少しまぜたお米の上に、栗をのせていく。白米がみえないくらいにびっしりと淡い黄色の粒がおおった。

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 ぴっぴっぴっと、炊飯器が炊き上がりを知らせる。ふたを開けると湯気とともに、ふんわりと甘い香りが広がった。優しい黄色の栗は、白いごはんの中にいつの間にかうまっていた。

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 器に飾った菊の横に、よそった栗ごはんを置く。お茶で小さく乾杯をし、祖母と母と一緒に口へと運ぶ。これが美味しい!栗の自然の甘みがたまらない一品に仕上がっていた。祖母も母もぱくぱくと食べてくれた。秋の恵をいただけることに、家族がこうして元気であることに、感謝に気持ちでいっぱいになった食事のひと時。

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 新しい挑戦が授けてくれた”反省の皮むき”。そのおかげで、嬉しい学びがあった。さらに、旬の恵の美味しさに、あらためて気づかされた。初めての「重陽(ちょうよう)の節句」のお祝い。忘れられない秋の日となった。

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