0006 《母のせなか.》
母とのふたり暮らしが長い。ふり返ると小さな頃から二人きりでいることが多かった。今も一緒に旅行をしたり、美術館やカフェなどへ出かけたりする。当然ながらよくケンカも。洗濯物の干し方が違う、言った言わない、余計なことに口出しする...そんな些細なことで。
私には密かに抱いていた夢があった。それは数ヶ月海外に滞在するということ。それを叶えるため、ロサンゼルスへやってきた。アパートを借りて、ひとりで過ごしている。
初めて訪れる街では、新たな喜びに幾度となく出逢う。市場で買った苺がとんでもなく美味しかったり、作ってみたポケが大成功だったり、通い詰めてしまうほどのカフェに巡り会えたり、夕陽が息を呑むほど美しかったり。そんなとき、「ママにも食べさせたい」「見せてあげたい」と想うのだ。
母がこんなにも愛おしい存在だったとは。途立つ日に抱いた、母のせなかの小ささが蘇ってくる。
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