見出し画像

【英語で書くこと】「かっこいい一文」を探して

課題を書くときに、楽しみにしていることがある。「自分が書くテーマ」に関連して、「印象の強い引用文を持ってくる」ことだ。

------

初めに:「かっこいい一文」の意味

英語で論文・小論文を書くときは、大抵最初にイントロダクションがあって、次にメインボディーがあって、最後にまとめの段落がある。イントロダクションは、読む人に「これから自分がこのテーマについて話しますよ」「こんなアプローチを取りますよ」「こんな結論を導きましたよ」ということを伝える機能があると同時に、「この文章はこんなに面白いテーマを扱い、こんなに大事ですよ」ということを伝える機能がある。課題の時は、与えられた問題について答えるだけだからあまり気にしなくても良いのかもしれないが、「この問題はこんなに重要ですよ」と示せることは、「その分野の広い知識」を示せるということにもつながる。だからこそ、イントロダクションの一番最初に自分が扱うテーマに関する短い引用文を持ってきて、「このテーマを話すのだ」ということを印象つけるのは、どうでも良い修辞に見えて、意外と大切だと教わった。

なので、毎回エッセイの最初には、インパクトがあって、かつテーマをうまく表現する短い引用文を持ってくることにしている。今までどんな引用文を引っ張ってきたのか、自分が書いたエッセイの最初だけを切り抜いて集めて振り返ってみたいと思う。

進学準備コースから

大学に入る前に一年在籍していた、進学準備コースで書いたものから。今見ると、あり得ないようなミスを複数内包していてびっくりしてしまう。

After the breakouf ot the upheaval, known as Arab Uprising and following insecurity in the region, the route to escape from the disaster penetrating Turkey has gained its importance for the residences (Benvenuti, 2017, p.3)
アラブの春として知られる動乱の発生後、トルコを通じた脱出のルートは、騒乱下の住民にとって重要性を増してきた。【英語・1学期リサーチ課題】

「移民について政治・文化・社会のいずれかの面からその影響を述べよ」という課題。「どの住民にとって(シリアだと思われるが)」大事なのか、'its importance' の 'its' に何の意味があるのか分からない下手な文章である。

The study of Human Geography has emphasised the significance in recognising the notion of Global and Local, and underlying differences among the places. 
人文地理学という学問は、世界と地元、および土地間の違いを理解することの重要性を強調してきた。【人文地理・1学期サマリー課題】

「人文地理学における国際化の理解について、異なる理論を要約せよ」という課題。学問の名前は大文字にしないことを覚えるまでに、なかなか時間がかかった。どこから引用したのかが明らかでは無いので、良くない文章。

It is known that cultural studies and political science studies consider globalisation to be born relatively recently (Pieterse 2012, p.1) 
文化学と政治科学では、国際化の発生は比較的近年であると理解してきた。【人文地理・1学期リサーチ課題】

「国際化」は「新しいものなのか」「ヨーロッパで発生したものなのか」を答える課題。中国の朝貢制度やフェニキア人の交易などは、「国際化は新しくヨーロッパ的なものである」ことを否定する、貴重な歴史的事象であり、日本の世界史教育の幅の広さがアドバンテージになった回だった。

Paul Gilroy criticised the British society as embedded with 'post-colonial melancholia' (Gilroy, 2010, pp.334-335).
ポール・ギルロイは、英国社会を、「ポスト植民地主義的鬱感」に伴われていると批判する。【人文地理・卒業課題】

教育制度が今日の英国でいかに差別意識を作り出しているかを調べた卒業課題にて。「英国が植民地の中心だった頃は、栄えていて良かったよなあ」という懐古的な感情が、グレート・ブリテンをいまだに植民地的な政治に駆り立てているとギルロイは非難している。

'I shall bring them [Germans] to see that it is education alone whcih can save us from the evils by which we are opposed (Fichte 1808, cited in Cubberly, 1920, p.480). 
教育だけが、現在我々が直面している敵(注:ナポレオン)から我々を守ってくれるのだということを、私はドイツ人たちに対し示す必要がある。【ヨーロッパ史および政治・卒業課題】

かの有名なフィヒテ(フィクタ)による、ナポレオン侵略に際したベルリンでのスピーチから。私が民族性(Nationalism)について初めて興味を持って、19世紀のプロイセンでの教育制度と民族性について書いた課題である。

大学一年生1学期から

The year 1945 marked as a decisive year in two aspects: as the ending of the Second World War, as well as the beginning of the apparently new form of the worldwide confrontation, the Cold War [略] (Bisley, 2017). 
1945年は2つの面で決定的な年であった。一つ目は第二次世界大戦が終了したという点において、そしてもう一つは「新しい対立」として捉えられた冷戦の開始という点においてである。【国際関係論入門・1学期中間】

冷戦の終了が国際関係論にどのような理論的変革をもたらしたのか、という問い。今考えると、「1945年を第二次世界大戦の終了と捉える」というのは、「何を大戦の終了として捉えるか」の定義付けが欠けているような気がする。

The USA has established itself as ‘exceptional’ basing itself on its liberal character since its founding as a state (Deudney and Meiser 2012, p.28). 
米国は、建国当初からの基軸としている自由主義的に基づいて、自身を「例外的である」としてきた。【国際関係論入門・学期末】

中国の成長がアメリカの国際的地位を揺るがすのか、という問い。他の記事で述べたように、ここで日本が反例として(経済成長を遂げても米国に打ち勝つことはなかった)使われていたのが興味深かった。

Defined as ‘organized violence between political entities’ (Barkawi, 2019, p.229), war has been understood from a variety of attempts which explains why and how warfare happens. 
「政治的主体間で発生する組織化した暴力」と訳される「戦争」は、どうして、またどのように起こるのか、さまざまな説明がなされてきた。【国際関係論入門・期末課題】

戦争の理論的理解が、冷戦後どのように変化したかを問う問題に対して。「戦争は政治手段の一つである」という19世紀プロイセン時代から提唱されてきた議論と、「戦争は利益を得るツールの一つに変化した」という近年の議論を比較するなど。特に後者の理論はアイデンティティ政治(民族などに訴えかけて戦争を長引かせるような傾向)についてなどにも触れていて大変に面白かった。

The concept of ‘nation’ and ‘nationalism’ has seen a variety of understandings (Heywood 2013, p.108). 
民族および民族性という概念は、さまざまな方法で説明されてきた。【政治哲学入門・1学期中間】

私が大好きなナショナリズム理論、今年もやりました。去年は主に「現代派」とされる「民族性の発展は近代化に伴って行われた」という理論に焦点を当てたのに比べ、今年は「ヨーロッパ中心的視点」で語られている点に注目。先生や講座によって視点が違うから面白い。

Democracy seems to be backsliding in the world.
民主主義は世界中で後退しているようだ。【政治哲学入門・期末課題】

ロシアの政治体制は「民主主義」と言えるのか、という問いに対して。端的だ。民主主義の後退と言いつつも、国によってその傾向は異なり、ポピュリズム的だったり、権威主義的だったり、ハイブリット型だったりと、国によって傾向や説明に用いられる理論が異なるのが印象に残った。

In 1883, Friedrich Engels commemorated Marx as ‘...discovered the law of development of human history...the special law of motion governing the present-day capitalist mode of production, and the bourgeois society that this mode of production has created' (Engels 1978).
1883年、フレデリック・エンゲルスはマルクスのことを、「人間の歴史の発展の法則を発見した。この法則は、今日の資本主義的生産およびそれが繰り出してきたブルジョワ階級の行動を説明する法則だ」と回顧した。 【社会理論入門・期末課題】

エンゲルスによる、マルクスの埋葬の際のお墓の横でのスピーチである。コミュニスト・マニフェストやその他の論文に合わせて英語で全文を読んだのだが、長く支援してきたマルクスの死に際して、エンゲルスはお墓の横で本当はどんなことを考えていたのだろう……?と思うと少し悲しくなってしまって、読みながらちょっと泣いた。今思えば意味がわからない。

‘Structure’ is one of the most important and most elusive terms in the vocabulary of current social science (Sewell 1992, p.1).
「構成論」という言葉は、今日の社会科学の中でも、最も重要、かつ掴みどころのない単語である。【社会理論入門・期末課題】

Structure-Agency Debate (社会構造・主体間の関係に関する議論)に関して、異なる理論を比較せよ、という課題に対して。個々人は「自分の意志で動いている」のか「社会制度やルールの下で動いているのか」を考える分野である。非常に興味を持ったので、多分別記事にまとめると思う。

The idea of ‘cultural capital’, developed by a French sociologist Pierre Bourdieu, has been acknowledged, developed, and adopted in the discipline of sociology to understand the inequality existing in the society (Besbris and Khan, 2017: Wallace 2016). 
フランス人の社会学者であるピエール・ブーディエが提唱した「文化的資産」という概念は、社会に存在する不平等を理解するために、社会学の中で認知・発展・使用されてきた。【社会理論入門・期末課題】

Structure-Agency Debateその②。「社会はそれ自身を再生産する」とはどういうことか、という問いに対して。ブーディエは、言語や文化的知識・エチケットなどの行動規範を知っていることを「文化的資産」と定義し、それがさまざまな形で経済的資産の分配の不平等性を加速させると述べた。例えば、「良い教育を受けた家の子供」はそれを元に経済的資産を得て、その子供に同じように良い教育を受けさせることができて、社会格差が埋まらないということ。大変に信憑性の高い理論であるような気がする。

'What we may be witnessing is not just the end of the Cold War, or the passing of a particular period of post war history. but the end of history as such' (Fukuyama, 1989, p.5). 「私たちが観測しているものは、冷戦の終了や戦後史上の単なる時間経過というだけではなく、それ自身が『歴史の終わり』であるのかもしれない」【共産主義の歴史・期末課題】

かの有名な、「歴史の終わり」理論である。記事の冒頭で述べた、人文地理におけるグローバル化についての理論にも非常に深く関わっている。ここで興味深いのは、我々がよく目にする「歴史の終わり」理論は、数年後に「政治科学的」なアプローチで出されたものであり、この1989年のものは非常に哲学的な、ヘーゲルなどなどを引き合いに出す文章だったということだ。ともなって、メインの主張は同じでも、その説明や論理立ては少し性格が違っている。

終わりに

文字数は500単語(A41枚)から3000単語(A46枚)とバラバラだが、自分の中で印象が強かったものも、好きなテーマも含んでいて、見返すのは中々楽しいものだった。2学期も面白い文章との出会いがありますように。


※引用元一覧【Bibliography】

「既に私の課題の中で述べたものを引用している」形になりますが、私の課題名を書いても仕方がないので、本体の引用元を記載します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?