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【大学の話】東欧研究学部とウクライナ #2

はじめに

ロシアがウクライナを侵略し始めてから、48時間くらいが経った。未だにキエフに軍は進み、NATOは軍を配備し、経済制裁が進んでいる。

濁流のような情報を受け取りながらも、戦争はどこか別のところで起こっている感覚がしている。その感覚を否定してくれるのは、私の、世界中からの先生が、もしくはクラスメイトが、それぞれに戦争を考えるときだ。

2月25日金曜日、午後の政治学及び政治社会学のセミナー(10人くらいでディスカッションをするゼミみたいな授業)から。

政治学

(SESS0017: Understanding Politics II: How Politics Works)

先生が言った。「お前ら、今日の授業は爆速で終わらせてウクライナの話をするぞ」。熱のこもった授業をする人だし、わかりやすいので好きなのだが口が大変に悪く、Fu*kとSh*tを多用する先生なので(「出来のすこぶる悪い論文」のことをFu*king piece of Sh*t という)、多分和訳したらお前らと言っていたと思う。

「ちょっとまて、その前にこの話をしたくない奴はいるか」と先生が言った。「2019年の雨傘運動の時は、話したがらない人が多くてできなかったんだ」。隣に座るロシア人の友人は何も言わなかった。

「俺はニュースを追ってて昨日ほぼ寝てないんだが」授業の最後にギリギリ7分を確保して、先生はプーチン氏のスピーチをスライドに表示した。プーチンのスピーチは、誰に向けられたものだったんだと思う?と問うた。それが「プーチンを支持しているけど戦争に反対派な人」に向けたものだったのか、「プーチンを支持していないし戦争にも反対派な人」に向けたものだったのか?

社会政治学

(SESS0014: Understanding Society: Introduction to Political Sociology)

おっとりとした女の先生が言った。「さて、始める前にウクライナの話をしましょうか」。

みんなうなづいて、でも誰も話し出さなかった。教室には、ロシア人と、フランス人(トルコ系)、ウェールズ人、アメリカ人(ドバイで育った)、スペイン人(イギリスで育った)、日本人の私と、中国人。

以下、便宜上、国籍でクラスメイトを識別する(仮名をつけるのはあまりにも面倒なので)。もちろんだが、これは私のLovelyクラスメイツの発言であり、「国の考えを代表するもの」ではないことをご了承いただきたい。

ロシア国内とNATO

しばらくの間の探り合いを経たのち、アメリカ人が言った。「ひとつ前の授業でもちょっと触れた。僕には、突然の侵略は大失策に見えた(blunder)。」
まず、ロシア国内でも反戦デモが起こっている。すでに1700人以上が逮捕されている 。プーチンの独走なのだろうか?NATOに対して、ロシアが攻撃者であることを示してしまったんじゃないか、と彼は言った。

フランス人が言った。「NATOが参戦するのかもしれない。フランス軍がポーランドに展開し始めた」
先生が重ねた。「イギリス軍も、東欧に展開し始めているね」
自分の国に軍隊がある国は、NATOの一員として軍隊が戦う可能性がある。イギリスも例外ではない。現時点でイギリスはロシア軍とは戦わないことを明言しているけれど、どうなるだろうか。

経済制裁と大学の救済措置

スペイン人が言った。「私は経済措置がどれくらい機能するのか疑問に思ってる」。授業の段階では、EUとアメリカが経済制裁を決定しただけだったが、そのあと英国政府も経済制裁を加えることを決定した。

昨日も書いたが、ロシアとウクライナの戦争の発生は、ガスや食糧の供給にも影響がある。イギリスはただでさえここ一年で何回も電気代を値上げしているし、インフレも激しい。工業用途のガス価格が高騰して、政府が介入したりもしていた。こうやって世界の形が変わっていくのだろうか。

先生がロシア人に尋ねた。「あなた個人的にはどう思う?もちろん、答えたくなかったら答えなくていいのだけど。」
「いや、大丈夫」とロシア人が答えた。僕たちも、プーチンが行動を起こすとは思わなかった、友人も僕もクレジットカードが使えなくなっている。お金を得る方法がなくなっている。
アメリカ人が重ねた。「必ずしも悪いわけではないロシア市民にも、こうやって影響が出ている」。
経済制裁は、本当に制裁として機能する。

大学は、ロシア・ウクライナ人に対してのサポートサービスを開始した。その中に、「臨時の経済的サポート」が存在する。ウクライナに家族がいる人へのサポートは必要だと直感的にわかる。でも、経済制裁を食らうと言うことは、「普通の」ロシア人にとっても、サポートが必要になることなのだ。初めてそれがわかった。

世界への拡大

私が言った。「中国がどう対応するのか気になる。新しい/珍しいことではないけれど、昨日も台湾の領空侵犯が起きているし、政府高官のリアリズム的なツイートも若干話題になった。英語圏ではあまり取り扱っているメディアが見つからなかったのだけれども。

アメリカ人が重ねた。「わかる。中国の動きは僕も気になっている」
ウクライナにロシアが侵攻すると言うことは、「起こらないだろう」と仮定して、誰も考えてこなかった。誘発されて台湾に中国が侵攻したら、そこでも戦争が起こる。
先生が二人の中国人に尋ねた。「二人は何か思うところがある?」
二人は何も言わなかった。

おわりに

気になって、ついニュースを追ったりBBCを聞き流したりしてしまう。精神衛生上良くないと思う。ただでさえ一人で過ごす夜が多いのに、暗いニュースを追い続けるのは、あまり褒められたことではない。

でも、もし世界大戦になるようなことになったら、きっと後世の教科書には、「冷戦終結後の戦間期には、『国際化』と呼ばれる世界経済統合の動きが強まり、一見して平和的発展が見られました。その一方で、西欧的民主主義の綻びや権力政治の傾向が長期的に見られ、その不満が噴出する形で第3次世界大戦が勃発しました」とか書かれるんだろうか。

そんな教科書を見なくて済むことを祈って。


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