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【日記】テムズの上で朝焼けを望む

朝4時に目覚め、朝5時15分に家を出た。

お目当ては、6時15分の日の出である。

パラパラと、元気〜?と声をかけてくれる日本の友達がいるので、たまに電話をする。日本とイギリスの時差は8時間あるので、向こうの夜はこちらの昼である。向こうの昼はこちらの朝。

数ヶ月前に、管理人さんにおすすめの日の出スポットを教えてもらった話、かつそれが自分のお気に入りポイントと合致していた話を書いた。それからずっと見にいけていなくて、どうせ電話のために早起きするなら、と思って、日程調整のLINEの途中で「私日の出見にいくから」と宣言して、当日も通話を繋げたまま家を出た。最近日常に忙殺されてめっきり出番の減っていた一眼レフを手に、朝のロンドンを歩いた。

まだ真っ暗だ
ちょっとずつ明るくなっていく

朝の4時。真っ暗なロンドンの街は、夜中の延長のまま静かで不穏な雰囲気が漂っている、ように思う。とはいえ、23時のロンドンとは代わって、すぐに朝が来るという期待がどこかに流れているような気がして、不思議な時間でもある。9月のロンドンの早朝はすでに冬の香りがしていて、トレンチコートを着てきたことを幸いに思った。

こんな暗い時間に出歩いて大丈夫なの、君が今襲われたら困るから現在地の住所を教えといて、えわかんないけど大丈夫だよ、住所わかんないんでしょ?、でもどこに通報するのが適なんだろう、外務省在外法人班?在英国日本国大使館?営業時間外だけど?なんて不穏なことを議論しつつ、私たちはお目当てのロンドン一望スポットへたどり着いた。朝の5時半を回ったところ。

徐々に明るくなる朝靄を眺めながら、そして生きることとかについて考えながら、ダブル・デッカーが走っていくのを眺めていた。ふわふわとした人生を、錨を下ろしたように世界につなげていくことは、案外大変なことを知った。ちょっと雲が厚めだから見えないかしら、と思いつつもしばらく待っていたら、6時15分、分厚い雲とビルの間のわずかな合間に太陽が覗いた。

水面に映る朝焼けが、少し濁ったテムズ川に反射して、なんだかセザンヌの風景画みたいだな、と思った。

私が写真を撮っていると、通勤に向かっていく人たちが私の視線の先を見て、「ああなるほど」という顔をして、写真を撮ったり私に微笑みかけたり綺麗だねえ、と声をかけたりしながら通っていった。ロンドンという街は冷たい街だと思っているけれど、美しいものを前にした時においては、少し暖かくなるのかもしれないな、と思った。

こういう美しいものに心揺さぶられる瞬間が、案外世界に人生をつなぎ止めておく錨になるのかもしれない。

おまけ

すぐにこの綺麗な朝焼けの色はオレンジ色に淘汰されてしまって、美しかったのはその刹那だったのだな、と思った。

せっかくなので橋を渡って、ロンドン・アイと修理をようやく終えたビックベンを眺めてから帰路についた。まだ稼働していないロンドンアイの前で、警備をしているおじさんに「おはよう」というように手を振られ、大英博物館の前で警備をしているお兄さんにも「おはよう」というように手を振られ、私は電話とホットチョコレートを手に再び暖かいベッドの上に落ち着いたのだった。

見本みたいなビックベンだ。

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