不思議話の宝庫だった祖母との思い出
祖母は霊感の強い人だった。
民宿を営んでいた、2軒分はあるのではと思うほどにでかい家。繁盛期が過ぎて誰もいなくなった2階からはドタドタと走る音がしていた。お正月に身内がみんな席についてご飯を食べているときにも、運動会のような足音。
みんなが集まっているから、楽しそうでやってきたのかもね。なんていっていた。
晩年の祖母が教えてくれたのは、薄暗い裏口から毎晩自分を好いていた男がやってくるという。
彼は自分と結婚したかったようだけれど、自分は気がなかった。しかし自分が結婚した後も毎日のように彼(の生霊)はやってきたのだと。
ある日、彼の姿が子どもに変わったんだよ、と祖母がいった。
きっと、彼は亡くなったんだ、と。
亡くなってからも毎晩やってくるといっていた。どれだけ愛されてたんだ、祖母。
祖母の民宿兼自宅が建てられた場所がいわくつきだったのか。それとも祖母に引っ張られて見えない者たちが集まっていたのか。
祖母が亡くなり10数年、昨年とうとう解体されてしまった。どれだけ怖い思いをしても、思い出がたくさん詰まっていた建物がなくなるのは切なかった。
私は中学1年から民宿を手伝っていた。繁盛期はもちろん、シーズンオフに一人で留守番を頼まれたり、一人で全ての部屋の大掃除をしたりしていた。
自分しかいないはずなのに、いつも誰かの視線を感じて震えあがっていたけれど、祖母に言ってもだからどうした、といわれる話なのでとにかく半泣きで仕事をこなすしかなかった。それぞれの部屋にある鏡を、ふと覗き込んでしまう時が恐怖だった。
そんな日々を送ってきたせいか、大人になったせいなのか、今はそういう不快感を感じても、不思議な現象が起きてもそれほど怖くない。きっと祖母もこういう域にいたのだろうと思うようになった。
祖母といると世間話のように昔経験した不思議な話を教えてくれた。けれどどれも特にオチはない。だって祖母にしたら日常の一コマだから。
子どもの頃、外を歩いていると少し先に影がいる。それが民家に入っていくと、その家で死人が出たとか。
祖母の生家のあった通りは両脇から無数の手が伸びていたとか。
身内に不幸があったときには、だいたいその夜に「挨拶」に来るとか。
そういう話を聞くのが好きだった。怖いけれどワクワクしてた。
そんな祖母を持つ私自身は霊感がない、と思うのだけど、いくつか不思議な体験をしたことがある。
中学生のとき、トイレの入り口から出てきた人とぶつかりそうになって思わずしゃがみこんだ。
一緒にいた友人は「…何してんの?」と白い目で見ているし、トイレの入り口には誰もいなかった。けれど今でもぶつかりそうになった人物のシルエットを覚えている。そう、シルエットははっきり覚えているのに、全体が白くて表情や細かなディティールは全くわからない。
もうひとつは高校生のとき。これもやはり学校で。
部活を終えた夕方、教室で友人と帰り支度をして先に廊下に出た。
一番角にある私たちの教室から4つ5つ奥に、パソコン室があったのだけれど、その教室から誰かが顔を出していた。
その頃の私は視力が悪くなってきていて、誰なのかははっきり見えない。
パソコン室・全体的に肌色=頭が薄い というキーワードでG先生だろうと自分で答えを出し「先生~何してるんですかあ~?」と話しかけた。
しかし、先生からの返事はなく、身動きする様子もない。
おかしいなあと思っていたら「どうしたの?」とようやく帰り支度を終えた友人が廊下に出てきたので
「いや、G先生があそこにいるんだけどさ…」というと
「え?誰もいないけど…?」
そういう友人の隣で、私の目にはいまだ先生(らしきもの)の姿が見えている。瞬時に「この世のものではない」という考えが浮かび友人を置いてダッシュで生徒玄関まで走った。わけがわからない友人も私を追った。
それっぽい体験談として話せるのはこの2つくらい。
でも、金縛りは何度も経験している。ただ、夢だと思っていた。
ここ数年で本当の金縛りなのかも、と思ったのは、何かのサイトで「霊が現れるまたは金縛りになる前には耳鳴りがする」という情報があったから。
まさにその通りで、それを経験するときにはキーー―ー-ンという嫌な感じの耳鳴りがするのだ。卵が先か鶏が先かじゃないけれど「あ、金縛りになりそう」という空気は確かにあり、耳鳴りが先か金縛りが先だったかはよく覚えていない。
ただ、何度か経験したら「金縛りを寸前で回避する」「金縛りを気合で解く」もできるようになった。でも、その姿はきっと、とても、こっぱずかしい。うなりながら、身体をもにもにと動かしながら、戦っているのだから。
自分が不思議体験をすることはあまり好まないけれど、たまにテレビで放送している「本当にあった~」「恐怖体験!~」の類は好きでよく見る。私が好きすぎて8歳の息子まで好んで見るようになってしまった。
そんな息子は保育園を卒園する際、将来の夢をタクシードライバーになること、と発表した。
なぜなら、バックミラー越しに幽霊を見たいから。とのこと。
小3になった今現在、彼の夢は変わっていない。
親として応援すべきか、ほかの道をすすめるべきか。
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