小西大樹「就職したら親戚が増えました」#10 邂逅編 お礼とお詫びと②

〔カフェバー 岬〕は、道路沿いの住宅地の中で隠れ家の様にひっそりと営業している。
外観は普通の民家の様に見える。小さな看板が入り口付近にこじんまりと添えてある感じで、バス停から5分以内で到着出来る好条件であるのに、売り上げは大丈夫なのか?と疑問を抱くほど、開店状況を前面に押し出してはいない。

であるから、初めて店に訪れる客は、八割~九割方口コミで来店している。
「あそこにオカマの店長がいる」
「客は少ないけど、昼時は狭いからまあまあ混む」
「カフェタイムはどちらかというとおしゃれ~よりも食堂寄り?」
「店長の無料の身の上相談があるけど笑える」
「バータイムは静かに飲める。でもって酒に呑まれる事がしばしば」
「オーナーが無口で静かに酒が飲みたい奴には天国」
「オカマ店長のみの場合はいきなり賑やかな居酒屋風になるから要注意」

そんな風に初客はある程度店の雰囲気を理解してからやって来るので、初回で馴染み客の様になってしまう者も出て来る。

だが、小西大樹はそうでは無かった。会社の大事なお得意様と聞いていた。
真実は、杉崎商事(株)北関東支社の社長である健司の次男の葵と、母方の従兄弟の基が経営しているカフェバーであったのだ。

葵が大樹の従兄弟とは知らず、また営業課長の本橋和弥も従兄弟とは名乗らず、大樹は何も知らないまま岬に訪れたのであった。

二度目の来店時では、本橋課長のご友人たちのお店、お得意様、と大樹の中で情報が書き換えられていた。

「本当にこれで大丈夫かな……。」

和弥から葵と基の好物を教えて貰った。
葵が甘いもの全般、特に和菓子、基がピーナッツやクルミやピスタチオ、カシューナッ等で、つまみ系であれば大体OKとの事。

「えっと……葵さんが水羊羹で、基さんがナッツ類の詰め合わせで……これでいいかなあ。」
悪いと言っても、既に店先に来ている。
大樹は軽く息を吐いて、そして前回は開かなかったドアを開けた。今回はチリリンと可愛らしい音が聞こえた。

「いらっしゃいませぇ~。ってあら!小西君じゃない!嬉しいわ!来てくださったのねえ?」

いきなり野太い声で葵がカウンターから声をかけた。
狭い店内であるが、地下のバーよりは広々と感じられる。

「こっ、こんにちは……あの、先日は、大変お世話になりまして……っ、有難うございました。」

カウンターに5脚のスツールと、テーブルがそれぞれ4名ずつの3セット。奥まった場所に2人分の狭いテーブルがあるだけ。

土曜日の開店直後はあまりお客様がいらっしゃらない、と本橋課長情報により、大樹はその時間に向かった。

聞いていた通り、客は八十代らしい男性が一人しかいなかった。カウンターの右端で、静かにコーヒーを飲んでいた。

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