小西大樹「就職したら親戚が増えました」#8 邂逅編 空白の一日②

ゴールデンウィークに入って2日目の昼。
ブランチを基に用意して貰い、さあ食べよう、という時、

ピンポーン……とインターホンが鳴った。

その時、基が低く「チッ」と舌打ちをした。
大樹は(どうしたのかな?)と、今までにこやかに話していた基が一瞬で表情を崩した事に驚いていた。

「あっら~眠りの国の王子様はお目覚めになったのねえ?良かったわ~!」

(店長さんだ!)声を聞いて、大樹は倒れる寸前の記憶を瞬時に呼び戻した。彼は、大樹にとって、とても印象深かった。

「なんだ。今日は店、,ないだろう。」

「ちょっとお?アンタからさっぱり連絡が無かったから、心配でこうやって来たんじゃないの!色々と考えちゃったわよ!アタシ……あら、王子様は無事?」

「大丈夫だ。夜中に目が覚めて軽い夜食を食べられた。今これから昼飯を食べるところだ。」
「あらあ、丁度良かったわ!アタシ,デザートを持って来たのよ!……入るわね。」

「あ、おいっ!葵!」
入室させる気など皆無だった基である。背後のリビングにいる大樹に注意しながら葵と話をしていたら、葵に不意を突かれてしまった。

勝手知ったる何とかで、スリッパを履きスタスタと大樹の所までやって来た。

「こんにちは。あら、おはようございます、かしら?確か……小西君、だったわよね。アタシを覚えてる?」

覗き込む様に大樹の方へ向かって来た。大樹は一瞬たじろいで、後ろへ下がろうとしたが……ソファに座っていた為に叶わなかった。

ハッ、と我に返り、ソファから立ち上がった。

「あのっ、店長さんでいらっしゃいますでしょうか……先日はご迷惑をお掛け致しまして……大変申し訳ございませんでした……。」
頭を下げながら、腰を曲げ続けていると、葵が大樹の両肩に手を掛けた。

「……葵って呼んで?」
「……えっ?」
「一昨日は小西君が悪いんじゃないのよ?あれは偶然が重なってしまった事故でしょ?それより今はもう大丈夫なの?さ、座ってちょうだい。あら、お食事中だったのね?」

「だから、言ったろうが。」
基がトレーを持って来て、葵の前のローテーブルに置いた。
「ほら。コーヒー飲んだら帰れ。」

「んま!ねえ聞いた?小西君?コイツ酷くない?せっかくデザートを持って来たのに~!はい、フルーツゼリーよ。後で食べてね。さ、冷めない内にご飯も召し上がって?」

「小西君、早く食べた方がいいよ。俺も食べるから。葵、俺のゼリーも有るんだろうな?」

「やあね、当たり前じゃない!アンタのもアタシのもあるわよ。はい、どうぞ。」

2人のテンポ良すぎる会話に、大樹はひと言も返せずにいた。2人が静かになってようやく、

「あの……有難うございます。頂きます。」とだけが言えた。

葵は大樹が食べ終えるまでは口を挟まなかった。

「ごちそうさまでした。美味しかったです。」

大樹が礼を述べると、基が嬉しそうに
「食べられて良かった。今、コーヒーを淹れるからね。」
と席を立った。
「あ、そんな、そこまでは……。」
「若い子が遠慮しないの。それにしても、小西君て……幸せそうに食べてくれるのねえ?」

「え……っ?そうですか……?」
「うんうん。なんか他にもっと食べられる物を持って来れば良かったわ。」

言葉の真意が分からず、大樹は「はあ……。」としか言えなかった。

(恋人だって滅多にこの家には入れないはずよ、基?それと小西君はアタシの従兄弟なんですけど?なんでアンタが面倒見てるのよ?)

滅多に見られない基の行動と、初めてまじまじと見る事が出来た祖母似の従兄弟と、交互に見つめて葵は不思議な気持ちになっていた。

小西君……何処にいてもすぐ馴染んじゃいそうねえ……此処に居るのが普通に見えちゃうわ。全く不思議よねえ……。

大樹は基が淹れたコーヒーを、美味しそうに幸せそうに飲んだ。

それを見た葵と基がとても嬉しそうだった。

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