小西大樹「就職したら親戚が増えました」#9 邂逅編 お礼とお詫びと①

就職して初めてのゴールデンウィークが、思わぬアクシデントにより呆気なく味気なく終わってしまった。
大樹はカレンダーを眺めながら、軽いため息を吐いた。

「ゴールデンウィークってこんなに短かったっけ?」

〔カフェバー 岬〕に連休前日から、30日の夕方まで滞在し、オーナーの基や店長の葵に世話になっていたので当然である。
但し、本人は約一日半の間、基の部屋で眠り込んでしまったので記憶が抜けている。

独身寮のアパートに戻ってからは、溜まっていた洗濯物を片付けたり、掃除をしたり、まだ慣れない食事の用意に四苦八苦していた。その隙に連休が大樹の頭の上を通り過ぎていた。

連休明けは、胃も頭も痛かった。
まだ内容も分からない、噂でしか知らない『始末書』とやらを書かねばならないのか?
と、大樹は内心ビクビクしながら出社した。

軽い朝のミーティングを終えると、大樹はまず秘書課の上司である清水課長に正直に報告した。

「あらま、そんな事があったの!大変だったわね!」

清水課長は開口一番に叱責はしなかった。
「はい、とてもご迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳ありません……それで、あの、こういう場合は,自分はどのような……行動を取るべきなんでしょうか。」

清水は少し首を捻り、
「そうねえ……実は今回は営業課の本橋君の都合で小西君にお願いした訳だからねえ……私は向こう様にお礼とお詫びを兼ねた再訪で大丈夫だと思うけど。念の為に、本橋課長に聞いてみてくれるかな。私はこれから社長に呼ばれているの。」

そう言うと、内線で営業課の本橋和弥に大樹が向かう旨を告げた。

(えっ、本橋課長に!)
大樹は心の準備もままならない内に営業課のドアを叩かねばならなかった。

「話は大体聞いているよ。」

「えっ?あの、自分は今、清水課長に……。」
「実はね。会社のお得意様と言っても、俺の気の置けない友人達みたいな取引先なんだよ。小西君に最初にこれを話してしまうと……緊張感が薄らいで、配慮に欠けてしまうと思って、言わなかったんだ。悪かったね。だから心配しないでいいよ。」

本橋和弥は、実は杉崎葵の父方の従兄弟である。しかし、葵の父親の杉崎健司支社長が、大樹には血縁である事実を隠す意向である為、和弥はきまり悪そうに、陳腐な理由を述べた。

「よ……よかっ……た……。」
大樹はその場で、ヘナヘナとしゃがみ込んでしまった。

「小西君、初めからいい勉強になったろう?」

和弥が机に片腕で頬杖を付いて大樹を眺める。
大樹ははっ!と我に返り、スクッと立ち上がり、
「は、はい、とても勉強になりました……。」
とため息混じりで答えた。

「今回は、俺もそうだけど、あっちも小西君の体の事とか知り得て無かった訳だろう。だから、小西君が悪い理由にはならないよ。運が悪かった。間が悪かった。次はちゃんと連絡を取り合う事にするよ。今回は気にしないで。」
「ですが、課長、あの……お二人にとてもご親切にして頂いて、あの……自分はどうしたら宜しいでしょうか?」

「う~ん。あっちはそんな事、気にして無かったからなあ。小西君の思う通りにしていいんじゃないかな?」
「え……俺、いえ、自分の思う通り、ですか?」
「そうだね。この際、会社繋がりは忘れてくれていいから。プライベートで宜しく。」

「プライベート……?」
大樹は困惑した。本橋課長と友人関係にあるお得意様に、プライベートでどう対処したらいいのか?悩む大樹の表情が露わに出ていたらしく、

「まあ、あの二人の好物でも持って、訪ねてくればいいんじゃないかな。」

と、特別に二人の好物を教えて貰った大樹であった。

葵君、これで良かったかな?
和弥は従兄弟の願いを知っている。その為に協力していた。

でもなあ……小西君が本当に俺たちの従兄弟なのか?叔母さんがどんな人か知らないけど。あの不安そうな表情とか、集団の中にいたら紛れ込んでしまいそうな感じがする存在感……見つけるのに苦労しそうだ。

叔母さんのご主人に似ているのか?あれ、待てよ。親父たちが、母親……俺らのお祖母さんに似ているから引っかかって調べて出したはずだから?本橋に似ているのか?

和弥は自分たちとは異なる性質の大樹に、血の繋がりが有る真実を見出せなかった。

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