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小西大樹「就職したら親戚が増えました」#1 当日の前に



俺は、小西大樹(こにしひろき)。この春、大学を無事卒業し、希望通り自宅から30分で通勤可能な職場に入社出来たと喜んでいたのだけど……。



就職先は、杉崎商事(株)。自宅近く(だと思う)の本社に採用されたはずなのに、本社、支社合同の新人研修が終わった直後、支社転勤の辞令を受けてしまった。

杉崎商事(株)北関東支社。会社から独身寮用のアパートまではそんなに遠くない。ないけど……俺は、大学までずっと家住みだった。就職しても、それはずっと続くと信じていた。俗に言うパラサイトシングルだと思う。


はあ。ご飯と洗濯と掃除にごみ出しから買い物から何から何まで自分一人でやらなきゃならないんだよね。当たり前だけど。

仕事を覚えるだけで精一杯なのに、家事全般をこなさなきゃならないなんて、ハードルが高すぎだよ。オマケに配属先は秘書課。今年度から試験的に男性秘書を採用するそうだ。

面接の時はそんな話し合いは一言も触れなかったと思うけどなあ……。



「小西君、用意は出来た?」
営業課長の本橋和弥さんだ。

「はい、出来ました。遅くなって申し訳ありません。」

明日からゴールデンウィークに突入する忙しい時に、俺は社用車で本橋課長と同行し、その後、途中で目的地近くまで送って頂き、初、任務〔重要書類を取引先のカフェバー 岬に届ける〕を成し遂げてから……直帰していいそうで。新人が早く帰宅しちゃって良いのかな?とまだ不安なんですけど。


あ、それとも、新人は足手まといだから、早く帰宅させようの主旨かな。



「小西君、ここから直ぐ近くだから、ちょっと分かりづらいかな。民家の様な店なんだけど。一応看板も有るから。」

「はい、こちらの封筒をお届けすれば宜しいのですね。」
「そう。そのまま帰宅していいからね。」
「はい、有難うございます。」

本橋課長……落ち着いていて、偉ぶる事もなくて、仕事もテキパキ出来て、尊敬している。兄さんとは大違いだ。兄さんよりも年上かな。こんな人が兄だったら良かったな。
「じゃ、初仕事、頑張ってね。」
「はい。有難うございます。お疲れさまでした。失礼致します。」

社用車を降りて、カフェバー 岬の看板を探す。割と近くに有るって……有った。小さな看板が。


この大きな封筒を渡せば、任務完了!となるわけだ。


なる、はず……だった。

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