小西大樹「就職したら親戚が増えました」#21 お手伝い編⑤

本命の同業者カフェランチに大樹と基は、
[上司と部下がふらりと偶然立ち寄った風]に店に入り、色々食べて飲んで、内装や客層、メニューのチェック、料金のチェック、店員のサービス具合等をチェックして、岬に戻った。

「あら~お帰り~いらっしゃい!」
先月とは違う色合いの紫色のブラウスと、黒っぽい色のロングスカート姿の葵が店の奥に座っていた。エプロンは着けていなかった。本日は店休日である。

「こんにちは。先日はごちそう様でした。」
「あらあ、こちらこそ有難うございました!美味しかったわ。」
「良かったです。」

「ねえ、テーブルの方に座っててくださる?今用意するから。あら?基は?」
「あれ?車を駐車場に入れて来ると仰ってました。」


「そうなの。」
(あ、そうね。小西君と裏口へ回ったら、杉崎の表札が見えちゃうわね。)
大樹の勤務先と同じ苗字の二人は、本社社長の次男と支社長の次男(本人は長女と言い張るが)である。そこから諸々露呈してしまう。

葵がカウンターの中に入ると、基が裏口から姿を現した。
裏口と呼んでいるが、基からすれば杉崎家の玄関にあたる。

「お帰り。お疲れ様。どう?収穫は有ったの?」
葵は色違いの筒状の缶をトレーに乗せてテーブルに近付いて来た。

「小西君のお陰で、予想以上の収穫があったよ。有難う、小西君。」
「いえ、そんな。こちらこそ、色々ごちそう様でした。」

「じゃあ、早速小西君の意見を聞かせて貰おうかな。」
基はレシートを取り出して、テーブルの上に置いた。
葵もテーブルの上に、トレーを置いた。心なしか、基の表情が曇った。

「ねえ、小西君、その前に選んでくれるかしら?是非小西君に飲んで頂きたいコーヒーなの。この三種類の内のどれがいい?」

そう言って葵は、缶に貼ってあるラベルを大樹に向けた。
赤い色の缶には……スペシャルBL、緑色の缶にはマイルドBL、紫色の缶にはオリジナルBLと書いてあった。

「……スペシャルBL?マイルドBL?オリジナルBL?」
「お前なあ、うちの店のを淹れてやれよ。」
「いいじゃないの。アタシのお気に入りなのよ。うちの店のに負けず劣らず美味しいんだから。ね、小西君、選んで?」

大樹は三種類の缶を見比べていたが、豆にも味にも詳しくはないので、
「じゃ……このマイルドBLをお願いします。」
と、当たり障りなさそうな緑色の缶を指さした。

葵はにんまりと笑うと、
「マイルドね?了解。ちょっと待っててね?直ぐ淹れて来るから。」
と、カウンターの方へ向かった。

基は、呆れたような顔をしていたが、思い出した様に席を立って、厨房へと消えて行った。

大樹はテーブルに一人残されたが、手持ち無沙汰ではなかった。
家具店で丸椅子やパイプ椅子を座って、座り心地を試したので、今座っている椅子の感触を確かめていた。

……あんまり良くは分からないなあ……でも、そんなに硬くはないのかな?丸椅子とは違うかも?あ、今、そこの丸椅子に座って確かめたいな……。

カフェに行って、椅子の座り具合を意識したのは生まれて初めての大樹だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?