小西大樹「就職したら親戚が増えました」＃3 　当日の前に

　俺は、杉崎基（すぎさき　もとい）。母方の従兄弟、杉崎葵（すぎさき　あおい）と共に、カフェバー岬をやっている。断っておくが、アイツがオカマだからと言って、オカマバーでもゲイバーでもない。至って普通のカフェバーだ。そのつもりである。

ただ、俺たちがゲイだと言うだけだ。葵はわかりやすいからいいとして、俺は身内以外誰にも話していないから、ゲイとは分からないと思う。まあ、分かる奴には分かるだろう。俺も、お客様で……もしかしたら、なんて方がいらっしゃると、つい身構えてしまうから。

いや、悪い癖だ。リラックス、リラックス。お客様には、当店にて昼も夜も寛いで欲しい。ここは自分の場所だ、と満喫して頂きたい。
灯台下暗しーーーそんな言葉が有る。案外幸せは足元に転がっているかもしれない。だから、灯台がある〔岬〕と名付けた。たまにはゆっくり、自分の足元でも見つめて、一息ついて欲しい。歩いたり走ったりしていると、足元なんかいちいち見ていられないから。

ここは、あなた（お客様）の居場所です。

まあ、俺自身が灯台下暗しかもしれないが。

俺もずっと、自分の居場所が欲しかったクチだ。ここは、俺の居場所でもある。……やかましいのが一緒にいるのがイマイチだな。

まあそこは慣れで我慢出来る。アイツとは生まれた時から腐れ縁だ。もうどうしようもない。
ま、同時に代え難い味方でもあると……ここでは言っておこう。本人には絶対言わない。言いたくない。

最近、アイツんちの会社（支社）がゴタゴタしている。父親の生き別れた妹の子が新入社員として現れたらしい。
そういえば、ウチ（本社）も去年からなんだか落ち着きが無かった様に感じるから、関係有るのかもしれない。俺たちには無関係だ。

俺たちは兄貴たちが会社を継いでくれる意思がある限り安泰だ。次男に生まれて良かった。お袋には感謝している。

そういえば、葵の従兄弟からさっき電話が有ったな。片付けをしていたから、詳細は分からないが……アイツにしては深刻そうな顔をしていた。

まあ、俺には関係ないな。

関係ない、と思っていた。

……思っては、いたんだ……。