小西大樹「就職したら親戚が増えました」#15 邂逅編 約束①

大樹、基、葵が試食をしていたら、ぽつらぽつらと近所のお馴染みさんらしき客が来店し始めた。

本当だ。葵さんが言ってた通り、さっきのおじいさんの後にお客様が来始めた。と、大樹は思った。皆さんメニューを見ないし、葵さんも注文を聞かない。違うかな。「いつものでいいの?」とだけ聞いている。

基はいち早く厨房に戻り、いつもの注文の品を作り始めている。

葵は各々のテーブルに座った一人、二人と接客しながら、大樹の所へやって来て、

「悪いわね。もうちょっと待っててくださる?あちらのお客様も、コーヒー飲んだらすぐ帰っちゃう人達なのよ。まだ基も小西君にお話しが有るらしくて。」

と言って、厨房へと入って行った。

今……11時か。そろそろランチタイムで混むんじゃないのかな?俺、このカウンターに居てもいいのかなあ……?あっちの隅の小さなテーブルの方でなくていいのかな?俺はあの奥の二人用のテーブルがいいな。

大樹は、初めて来店した「岬」に、やすらぎを感じていた。居心地が良さそうで有る。

入り口側には窓が有るが、奥の方には無い。
隠れ家の様な店の、またまた隠れ家的な場所である。

しばらくすると、中年女性と見られる客たちが
「ごちそうさま~あ~生き返った!またね、葵ちゃん。」

「今日も美味しかった、って基くんに言っといてね!」

と、それぞれ感想を口にしながら帰って行った。

「有難うございましたあ~。またね?」

何だろう。帰って来る場所の様だ、と大樹は思った。葵の挨拶が、「いってらっしゃい」 とでも言っている様に聞こえる。

コーヒーもケーキも美味しかった。基さんが調理されているんだ。

大樹はゴールデンウィーク中にお世話になり、頂いた食事を思い出していた。

メニューの品はみんな美味しいんだろうなあ……。

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