小西大樹「就職したら親戚が増えました」#13 邂逅編 お礼とお詫びと⑤

コーヒーの香りに惹かれ、本日のケーキセットを自分でも知らない内に夢中で完食した大樹は,やっと本来の目的を果たそうと、立ち上がった。

「ごちそう様でした。とても美味しかったです。……あの、それで……後になってしまいましたが、その。」
「小西君のお口に合って良かったわあ。……え?何?」

大樹は傍らの手提げ袋を葵に差し出すと、
「あの、先日は大変お世話になり、ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません、と、有難うごさいました!……の、ほんの気持ちなんですけど……。」
と、言いかけた。その時、基が別のトレーを持って厨房から出て来た。
「小西君、丁度良かった。今ね、試作品が出来上がった所なんだ。良かったら味見してみてくれるかな?あれ?」
大樹が袋を渡す前に基が現れた。

「えっ?小西君、これアタシたちに下さるの?」
「は,はい。つまらない物ですが(って、使い方合ってるよな?)こちらが、あ、葵さんで、こちらが……基さんの分です。」

「ええ?そんなお礼なんていいんだよ。」
基が大樹の前にトレーを置いて、座って、と促した。
「ホントよ。そんな気を遣わなくっても良いのよ?こうやってお店に来てくれただけで嬉しいんだから。……って、アラ?二人分別に有るの?」
「はい。こっちが水羊羹で、こっちがナッツ類なんですけど……って、あのこれは?」
大樹の前に置かれたトレーの上にはミニトマトが飾りに施してある、赤いシャーベット状の物がバニラアイスと一緒に涼しそうな器に入れられていた。隣には小振りのカップにコーヒーが。

「夏に向けての試作品なんだけど。良かったら味見してくれる?トマトと苺のシャーベットで、チーズ風味のバニラアイス添え、ってとこかな。コーヒーはさっきのとはまた違う豆だよ。なんだか悪いなあ、二人とも貰っちゃって。」
「ねえ、小西君?こうやってアタシたちの好みのど真ん中攻めてくるってコトはあ、かず、いえ、本橋課長の入れ知恵ね?(ったく和兄ったら余計な事して!)」

「いえ、あのっ、それは自分がアドバイスをお願いしましたので……大丈夫だったでしょうか?」

「有難う。気を遣わせて悪かったね。好物だよ。遠慮無く頂くね。」
「ホントなんか悪いわあ。アタシコレ好きなのよねえ。頂くわ。あ、溶けちゃうわよ。早く召し上がれ?」

「え、あの……。」
「苦手な物が入ってた?(確か調査書にはそういう記載は無かったよな?)」

「いえ!あの、味見と仰いましたので……自分でいいのかな?と思いまして。」
「お嫌いで無かったら召し上がって?溶けない内にね。」
「小西君の意見を頂戴したいと思ってね。どうぞ。」

意見……う……責任が発生しそうだ、と大樹は思ったが、真っ赤なシャーベットとアイボリー色のアイス、そして先程とは香りが違う様なコーヒーを前にして、遠慮は出来なかった。

「あの、では遠慮無く頂きます。」
「どうぞどうぞ。ね、基、アタシたちも一緒に食べましょうよ。」
「そうだな。お客様もまだいらっしゃらないと思うしな。ちょっと待ってろ。直ぐ持って来る。」

そうでもしないと、また二人して大樹を見つめてしまいそうだ。この子を見ているのは楽しい。そう基は感じた。

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