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ドラマを観て思い出したあの頃の私

TOKYOMXで放送された『セツナ』というドラマを観た。
高校3年生の夏、思春期真っ只中の繊細な女の子たちを
優しく柔らかく、ノスタルジックに描いた素敵なドラマだった。

高校3年生。16歳のあのころ。
馬鹿みたいに笑ってて、馬鹿みたいに楽しくて、無敵で最強みたいに思える反面
傷付きやすくて転びやすくて
へこんだり沈んだりして
でもやっぱりすごく逞しくて
ちょっとしたことで未来を簡単に上書きするような
すごいパワーを持っていたと思う。
明日になれば忘れちゃうような小さなキッカケだけで
無限に前に向かって歩き出せるし
前髪切りすぎたとか、そんな小さなことで
地獄かってくらい落ち込んだりする。

テレビに映る『セツナ』の女の子たちには
そんなパワーがあった。
やわらかい磨りガラスみたいな
ノスタルジックな色合いの映像と
雑多とおしゃれが半分ずつ混ざったような
不思議と懐かしい小道具たち。
現代の女の子たちを切り取ったドラマは
なぜか90年代を彷彿とさせて
3人の女の子たちのパワーも相待って
私をぐいぐい引っ張っり
16歳の頃の、あの夏に連れて行ってくれた。

私には「高校3年生」がない。
高校2年生で学校を中退したので
卒業アルバムもなければ
高校生最後の部活もないし
予備校も、受験を共に頑張る仲間も、定期テストも模試も
冬に控えたセンター試験もなかった。

高校に行ってないからやることがない。
バイトでもすれば良かったんだけど、そんな気持ちにもなれなくて
一生懸命などと言うものからは程遠く
甲子園球児ってたぶん、別世界の人間だよなとか思いながら
住んでいた神戸の三宮をプラプラしていた。

悪いオジサンに騙されてセクキャバに入店させられかけたり
(店に連れ込まれ、やばいと思ってダッシュで逃げた)
知り合ったお兄ちゃんにオールナイトのクラブイベントに連れていかれたりしつつ
「そういうちょっと悪いこと」
にもあまり興味が持てなくて
結局目的もなく、ひとりであちこちプラプラしているだけだった。

一つ夢中になっていたとすれば
当時流行していた
ストリートミュージシャンたちのライブを見るのがすごく好きで
夕方暮れかけた頃合いにあちこちでギターをかき鳴らす音が聞こえだすと
お祭りみたいにワクワクして
終電ギリギリまでいろんな人の歌や演奏を聴いていた。

当時ストリートミュージシャンのメッカみたいになっていた場所が
ちょうど予備校の帰り道になっているところで
仲良くなったプレイヤーたちと飲み物片手に座り込んでいる横を
昔のクラスメイトたちが足早に通り過ぎていった。
私は、あの子達とも違う世界に来ちゃったなあ。
漠然とこのままで良いわけないとは思っていたけど
やりたいこともないし
未来への希望もないし
今が楽しいから良いんじゃない、と言い訳しながら
なんとなく毎日が過ぎていった。

当時付き合っていたのはストリートライブで知り合った11歳年上のアマチュアミュージシャンで
鳴かず飛ばずもここまで極めたかと言うような人だった。
めちゃくちゃ良い人だったけど
お金は全然なかったし
仕事もほとんど続かなかった。
だけど彼の家に居てインスタントコーヒーを飲んでいる時間が
とても好きだった。

「お前と結婚するから俺音楽辞めるわ」

ある日突然、彼が言った。

「音楽辞めて、ちゃんと働く」

そのまま私の返事も待たずに
就職活動に走り回るようになった。

ギターを置いて、歌うのを辞めて、ライブ用のTシャツを仕舞い込んで
窮屈そうにネクタイを締めて
どこで買って来たのか
全然似合わないリクルートスーツを着るようになった。

なんで?
わたし、なんも言ってない。
結婚したいなんて一言も言ってない。

あんたから歌とったら、何が残るん。

彼は27歳だったから、しょっちゅう家に上がり込んで居座る私を見て
真剣に未来を考えてくれたのだと思う。

だけど私は彼の歌が好きで
彼のギターが好きで
彼の作る音楽が大好きだった。
売れるとか売れないとか
才能があるとかないとか
ふたりの将来とか
私はなんにも考えてなかったけど
彼の歌が好き、それだけで良かったし
それが全部だった。

彼の歌が世界から消えてなくなると思った。
そしてその引き金を引いたのは私だと思った。
埃を被っていくギターを見たくなかった。
彼の歌が世界から消えて良いわけないと思った。

私は彼と別れた。

真面目に勉強して大検を受けた。
そのままの勢いで大学の自己推薦枠の入試を受けて
南河内の山の中にある芸術大学に進学を決めた。
専攻は創作文学だった。
文章を書くのは好きだったし、大学に行けるのも楽しみだったけど
やっぱり夢だとか、目標だとかは全然なくて
自分の行ける範囲内でとにかく前進してみた、というだけの話だった。

これが私の16歳の夏の出来事。
夢も目標もないけど
プラプラしていたけど
絶対に「いやなこと」っていうのはあって
いやなことをやるくらいなら
なんでもいいから
とりあえずなんかやってみよう。

16歳って、それが全てなんだ。

あの夏にタイムスリップした私は思う。

ドラマの中の女の子たちも
当時の私も
それはそれで
一生懸命生きていた。

ドラマの女の子たちを愛おしく思うように
39歳の私は
16歳の私のことも
とても愛おしく思えたのだった。

このドラマに出逢ったきっかけは
私が推しているバンド
「カルモニカ from Calmera」
の西崎ゴウシさんが
音楽を担当していたからで
じゃなきゃ絶対観てなかったんだけど
ご縁って不思議なもので
すごく素敵なノスタルジーをもらえた気がしている。

あの日ストリートライブに通いながら
彼氏の音楽がなくなっちゃイヤだと思った私は
大人になってお金を稼いで
CDを買ったり
ライブハウスに音楽を聴きにいったりしているけど
大好きな音楽に溢れる世界が本当に大切で
だから推してるバンドの音楽も
絶対に世界からなくしちゃダメだと思っている。

大好きなミュージシャンの作った音楽に乗せて
素敵なドラマを観れる。

とても贅沢な世界でした。

ご縁に感謝を捧げつつ
今日はここまで。

『セツナ』はTOKYOMXの見逃し配信で観ることができます。
「エムキャス」というアプリをダウンロードして是非とも見てください。

ではでは、私でした。

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