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インタビュー相手のタイプ別に考える「取材術」

いつもお世話になっております。Twitterで寄せられたご質問にノートでお返しする本シリーズ。今回も質問をいただきましたので、回答したいと思います。

著名人ではなく普通の人を取材すると、なかなか記事にしづらいことが多いです。どんなことを気を付けていますか?

いや、非常に面白い質問ですね。

取材について取り上げるのは初めてなので、少し体系的にお話ができればと思っています。お付き合いください。

インタビュー相手軸で考える「取材の進め方」の類型

有識者や現場の人などなど、人に話を聞いて記事をつくるのもライターの大きな仕事です。

が、常にインタビュー相手がスラスラと「記事になりそうなこと」を話してくれるわけではありません。相手がどのくらい日頃から自分の考えを言語化しているのかや、自信を持って語れる実績があるかないかなどによっても、インタビューの進め方は大きく変わってきます。

今回は簡単にインタビュー相手を類型化した上で、ターゲット別のポイントについて僕なりの考えを共有していきたいと思います。


本記事で考えてみた分析軸は大きく2軸。

横軸を「客観的実績のあり・なし」、縦軸を「知見の言語化ができているか・いないか」で区切って4つの象限に分け、それぞれにおける「取材の勘所」を考えてみました。

では、お付き合いください。

①有名人タイプ


まず右上の象限から。

事業に成功した経営者であったり、インタビュー慣れしているスポーツ選手など、「実績もあり、かつ日頃から人に何かを伝えることをルーティンとしている人たち」は、右上のゾーンに入ります。

「おれ、あの人に話聞いたことあるんだよね」と自慢したくなるような有名人やビッグネームがこのゾーンに入る印象で、僕もこのゾーンにいる人たちの取材は何度か経験があります。

取材を引き受けてもらうのには一苦労があるかもしれませんが、実はこのゾーンにいる人たちへの取材は、「話を聞く」だけなら、僕のこれまでの経験ではそう難しくありません。何より取材慣れていますし、機転も利く人が多いからです。もちろん変な質問をしないような注意は必要ですが、ある程度どんな球を投げても投げ返してくれる安心感もあります。

ただ一方で注意しなければならないのは、取材慣れし過ぎているがゆえに、通り一遍の質問を投げかけただけでは他の媒体で既に語られ尽くした内容を再度なぞったようなインタビューになってしまうこと

本音を引き出したり、今まで取り上げられたことのない側面をどう切り取っていくかなど、事前にある程度設計したうえで臨むことが求められます。他の媒体にすでにのっている記事を金太郎飴のように再生産する取材になっていないかは、細心の注意が必要です。

②職人タイプ

次にその右下、「実績はあるけれども、それを言語化できていない人」。ここでは「職人」的な人として定義づけさせてもらいました。

その名の通り、「現場第一線で頑張り続けている人」なんかがここにプロットされるのではないかと思うのですが、そういった方を取材すると、本人も「自分の何が成功要因なのか」がうまく言語化できていないことが多々あります。「すごいと言われているが、自分は別に、当然のことをしているだけど…」みたいな感じです。

そういうときに個人的に意識しているのは、「比較軸」を示すことです。

「普通なら、あなたのようには頑張れない」とか、「確かに頭では理解できるけれど、実際にあなたのように行動しようと思える人は少ないのでは」など、大多数の標準ラインを示したうえで、本人に「自分の何がほかの人と違うのか」を考えてもらえると、その人固有のアイデアや、原体験が引き出せるように思っています。その過程で得られた「その人らしさ」を彫刻を掘り進めるがごとく原稿に加えていくようなイメージです。

こういう取材を迅速に進める上ではそもそも、「普通の人はどう考えるのか」「読者がこの人と同じように考え・行動できるかどうか」というあたりを映し鏡のように持って置き、それを引き合いにぶつけていくことが肝心なんじゃないかなと思ったりします。

③ニューカマータイプ

次に左上の象限。

「実績はまだこれからだけれども、やりたいことやこれまでの経験からの教訓を言語化できているケース」

これから起業して大成しようとしている経営者であったり、視点が未来を向いている若者や学生なんかは、ここに入るのではないかと思ったり。「取材を受けて認知を上げたい!」という人が多いゾーンなので、特に初心者ライターの取材相手にもなりやすい人たちな印象もあります。

この人たちは、「言語化」自体はできているので取材は進めやすく、いかにも名言めいた言葉が次々に出てくる傾向にはあるのですが、話が抽象的に・大きくなりすぎて、「意識の高い原稿」になってしまいがちな点に要注意です。良くも悪くも、えぐみのない「きれいな話」で終わってしまいがち、というか。

こういうケースの場合重要なのは、「ファクトベース」「論理的であること」ではないかと思っています。

その人がどういう経験を踏まえてその発言をしているのか。どういう社会構造を捉えた上で今後のビジョンを示しているのかなど、論理の飛躍を許さず、できるだけ数値化したり、事実に基づいて話をしてもらった方が、原稿に説得力が増します。

そのためには取材する前段階である程度、周辺のことを調べておくことも必要でしょう。あと、その人の成し遂げようとしていることの妥当性などについても持論を持っておき、時には「でも、ここはどう考えますか?」みたいな鋭い突っ込みも重要ではないかなと。いじわるになりすぎないようには、要注意ですが…。

④市井の人タイプ

最後に、「客観的な実績がない上に、言いたいことも言語化されていない人」の場合です。今回のご質問も、このゾーンの人たちのインタビューをどういうふうに進めていくかというものであるように思いますので、ここについてはちょっと深く掘り下げてみたいと思います。

僕個人としては過去、求人サイトの社員インタビューを手掛けてきた時期にこういう「市井の人」を数多く取材してきました。

ぶっちゃけて言えば、取材時間に「時間が空いていたから人事部になんとなく呼ばれた社員」とか、そういう感じです。異世界転生アニメの主人公のように、突如召喚されたに過ぎないような感じ、というか。すみません僕がただ言ってみたかっただけで、むしろわかりにくいですね。

こういうときに個人的に大事にしているのはまず、「記事の対象読者」と「取材の目的」をしっかりと伝えること、です。取材慣れしていない人の場合特に「あなたを取材して記事にします」なんて言われると、「自分で大丈夫だろうか」とか「中身のある話ができるだろうか」とか心配するのは当然です。ターゲットを明確にしたうえで、その人に向かって話してもらうような取材をどう進めていくかがカギになるのではないかと思っています。

やや概念的なので、ここで僕が過去手掛けた「社員紹介インタビュー」を例に考えてみます。

突然人事に呼び出され、何が何だか分からない状態で「あなたはどうしてこの会社に入社したんですか」とか、「仕事のやりがいは何ですか」と聞かれても、記事にできるような素材はなかなか集められません。

まずは以下みたいな感じで、ターゲットと目的がある程度咀嚼できる状態でお願いしたうえで、話を聞いていくのがまずは大事なんじゃないかなと思います。

・今回の記事はこの会社に興味のある人がターゲットで、そういう人の背中を押すような気持ちでお話してください
・この会社への転職を悩んでいる5歳下の後輩に話すようなことを教えてください
・この会社のライフワークバランスを気にされている人に向けて、現場視点で働きやすさを感じたエピソードを聞かせてください

その上で、話してくれた意見に対しても、まるで自分自身がその会社への就職を検討している人かのように相槌を打ちつつ、でも「こういう事態もあるんじゃないですか」とか、「ここは意外でした」みたいなツッコミを入れるように意識しています。本人も何がユニークか把握できていないケースが多いので、この辺りは、②職人タイプと同様、「普通ならこうなのになんでこの人は違うんだろう?」という視点を持ったうえで質問を重ねていくことが大事です

【質問の組み立て方例】
・今まで取材してきた職場ではこういうふうな人が多かったんですけど、御社ではどうですか?(比較軸)
・こういう意見もあると思うんですけど…(反論対策)
・具体的なエピソードで…(例示)

いずれのケースも、「読者を代表して聞く」姿勢で

いろいろ申し上げましたが、どの方の取材をするにしても、「読者だったらどう考えるか」という基準を強く持っておくことが重要なんじゃないかなと思っています。

僕自身も取材での失敗は数多く「もっとこれを聞いておけばよかった」とか「掘り下げが甘かったなと思う反省は枚挙にいとまがありません。ぜひこの記事を読んでいる方の取材テクニックやちょっとした工夫などについても教えていただけると嬉しいです。

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