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「いいライターがいない」と嘆く編集者が、まずすべきこと

先日掲載した「すごいライター」の記事に、たくさんの反響をいただきありがとうございました。会社の枠を超えて「編集人材のキャリア形成」や「仕事のあり方」についてディスカッションする機会は僕にとっても本当に貴重なので、感想やご意見など、「なるほど」と思いながら拝読しています。

さて今回は「すごいライター」の記事にいただいた反響の中で「まさにそこ!!」と思ったポイントがあったので、記事にさせていただきます。

ライターが幅広い業務を巻き取った時に「インセンティブが増えるケース」と「要求だけ増えるケース」があって、もちろん見返りが全てではないんだけど…後者のクライアントにつくといいように使われて疲弊してしまう。

本当に、クリティカルな指摘をありがとうございます。そして同時に、発注元を代表してお詫び申し上げます。僕も過去を振り返ると少なからず、フリーで協力いただいている方の「お値段以上の対応」に助けられたことが何度もあり、当時のことも思い出しながら拝読しました。

ライターとして「気を利かせた対応」したとしても、クライアントがそこに報いて原稿料をあげてくれる保証がない、という問題。もはや人と人の信頼関係の話のようにも思えます。

特に最近はライターも増えている分、発注元のメディアが強くなりがちな力学構造は否めず、負荷の大きな要求しながらも料金には反映しない、「頑張り損」を看過してしまう媒体も、残念ながら実在すると感じます。

そんな状況でライター側にばかり「すごさ」を求めるのは胸糞悪い話で、本質的には、すごいライターだけでなく、「誠実なクライアント」が増えなければ、業界全体に明るい未来なんてないですよね。その点をあまり意識せず、一方的に「すごいライター」を紹介する形で前回の記事を出してしまった点、少し反省もしております。

すごいライターが輝くのは、それを受け止める編集側があってこそ。
今回は、僕自身「やる気のあるライター」にであった時、彼らがのびのびとやってくださったことに報いられるよう、意識している点について、お伝えしたいと思います。少し手前味噌のようになってしまいますが恐縮です。あくまで「へえ、この人はそう考えてるんだ」くらいで受け取ってもらえればと思います。

ちやみに、、今回の記事のターゲットは、「いいライターさんいないかなぁ…」と思っているクライアント側の編集部の人たちだったりします。「まむしさんは、すごいライターに出会えてよかったねぇ」「どこで見つけたの?」とかのんきに語ってくる方々に、「いや、そのためにこっちもいろいろ苦労してんだよ」といいたいというか…。

ではお付き合いください。

編集者がライターに伝えるべきは「関係性のビジョン」だと思う


今回の記事で言いたいことは、↑この一言↑に尽きます。

前回の記事でもお伝えした通り、僕のいる編集部では、初回の面談時にオリエンテーションとして

・自社メディアのビジョンや戦略
・足元の取り組みなどについて、簡単にご説明をしています………が、

もう一点、長期的なコミットをお願いできそうな方の場合、僕が意識的に話していることがあります。

それは、「ライターとの”関係性”のビジョン」です。

たとえば弊社の場合、一口に「業務委託のライター」といっても、多様な形態で協力してくれている方がいらっしゃいます。

【ご活躍例】
・一定水準のPVを超える記事を定常納品して原稿料アップさせた方
・固定費をお支払いした上で定例ミーティングなどにも出席いただき、
 成果物ができたら別途出来高払いしている方
・得意ジャンルにおいて「連載」を持っていただき、数か月~1年にわたって継続的に納品してくれている方
・企画だけ出してもらい、その分は企画料として払い、別のライターに記事を書いてもらっている方 など

どの様式でいくかはその方の強みやご希望+弊社の都合次第、という感じです。とはいえ、クライアントを複数持っていらっしゃる方なんかは、「今まで通りシンプルに原稿をいただいて払う」という典型的な依頼に着地するケースの方がまだまだ多いですが。

初めての面談時は、「お見合いの初顔合わせ」みたいな状態なので、お互いにどんな関係性や待遇がWINWINなのかは読めないですし、そもそもその方がどこまでうちの媒体での通用するかも定かではありません。

だから初期のうちは「原稿をいただいて払う」というシンプルな座組になりがちではあるものの、「将来的にこうした関係性があり得る」ことや、「編集部はこういう力学構造の中で動いているから、こういう方向性のものには投資的価値を感じて料金を払うことはできる」というスタンスをあらかじめ伝えておくと、その方のキャリアビジョンにうちの編集部がうまく組み込まれ、お互いにハッピーな状態が作れるのではないかと期待しているところがあります。ビジネスパートナーとして長らくお付き合いするうえでも、こういうのは、重要な要素のように思ったり。

逆にライターの視点で言うと、

・編集者自身がどの程度ビジネスモデルと自社媒体の整合性を説明できるか
・ほかにどういう活躍をしているライターがいるか
・どういう取り組みであれば投資として意欲的に応じてくれそうか
・相手のコストを減らすのではなく、バリューを高めるためにできそうなことはないか

といったあたりを探っていくと、クライアントとの相性を見極める一定のリトマス紙にはなるのかもしれない…?と思ったりもします。

なお、簡単なことのようではありますが、現在の弊編集部のやり方を認めてもらうまでには、経営層とそれなりのやりとりもありました。制作予算を「単なるコスト」ではなく「事業成長のための投資」としてみてもらうには、いかに媒体を成長させ続け、次の戦略図を描きながらも編集の責任者が事業貢献の成果を説明できるかにもかかっています。正直な話、ここができる人が異常に少ないのも、編集業界の大きな課題じゃないかなとは思っていて、僕自身ここを何とかしたくてMBAを取得したという経緯も。

いろいろやった結果、編集責任者に求められるのは「制作側がコンテンツに情熱を持つことをいとわず、チャレンジしていく体制」をつくって、それを読者に還元していくことなんじゃないかなあと言うのが、最近の考えです。

改めて、「いいライターがいない」という編集者に思うこと


さて、今回の記事は「いいライターさんがいない」と嘆く編集者に向けたものだと書きました。

編集者として働いていると、「いいライターさん紹介してよ~」と言ってくる人ってめちゃくちゃ多いのですが、その人が言っている「いいライター」って往々に無茶振りに応じてくれて文章にも落ち度のない「(都合の)良いライター」だったりするので、手塩にかけて二人三脚しているライターを、おいそれと紹介する気には到底なれないケースが多かったりします。いいライターに逃げられないよう関係性の維持にかなり気を張っている立場からすると、「なんでいいライターさんと出会えてないのか、もうちょい考えろよ」と思うことも多々。多々。

「すごいライターを紹介してほしい」と思うのであれば、彼らがのびのび活躍し、それが保証される環境をどうつくっていくことが先決。金銭的な側面もそうですし、仮に今予算がなくても、経験やスキル、実績の面で還元できるものがないか。長期的に媒体を成長させていく上で、どうやって媒体を作ってくれた人に還元していくかなど、頭をひねって「関係性のビジョン」を打ち足していくことが、筋肉質な編集部づくりには欠かせないよなと考えています。

正直、特にこの辺りは個々の編集者というよりは編集長レベルの人が考えることかもしれないと思ったりもします。トヨタが自社グループ内だけでなく、豊田市全体にたくさんの雇用を生み出し、会社を超えて強固な連携体制を確立したように、外部リソースに支えられている以上メディアも、同じことをやった方が長期的にみて強くなると思うんですよね。結局、いわゆる「すごいライター」にそっぽ向かれてつまんないコンテンツばかりになったら、終わりですから。。。

繰り返しにもなりますが、、「いいライターがこない!」と嘆く前に、いいライターが報われる編集体制をつくろう!というのが、編集者に向けた今回のまとめです。お読みいただき、ありがとうございました。

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