影で遊ぶMVではジムクラスヒーローズがイケてるが、エステルも何気にお気に入り(オススメMV #149)
こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の149回目です。(連載のマガジンはこちら)
今回は、出演するアーティストの影を効果的に使っているMVの中で、お気に入りの作品を中心にお届けします。
勝手に命名シリーズのひとつでもあるので、「影遊びMVと勝手に命名」というサブタイトルもつけたいところです。
細かい話はあとにして、まずは一番お気に入りの「影遊びMV」をご覧ください。
ジム・クラス・ヒーローズの「Stereo Hearts ft. Adam Levine」です。
アーティストの影だけでなく車の影がラジカセになったり、様々なバリエーションで最後まで飽きずに観させてくれます。
しかも影遊びの割合と配分が絶妙で、アダム・レヴィーンがショップにあるブラウン管のテレビに映し出されて歌うなど、単調にならずに全体のクオリティが高いMVとして仕上がっています。
もちろん楽曲としても素晴らしく、更にはこれだけ工夫を凝らした映像にもかかわらず、楽曲が前に出ているのは優れたMVの証(あかし)です。
ジム・クラス・ヒーローズ(Gym Class Heroes)は、1997年に結成したUSのバンドですが、以前この連載で別のMVを取り上げたことがあるので、バンドの紹介はそちらをご覧ください。
(以前の回はコチラ⇒「SAKEROCKとGymClassHeroesのキワモノ具合は甲乙つけがたし」)
この「Stereo Hearts」は、2011年の5thアルバム「The Papercut Chronicles II」のリードシングルとしてリリースされた楽曲で、彼らのNo.1ヒットとなっていますが、YouTubeにアップされているオフィシャルMVはなんと8億回を超える再生回数となっており、それだけMVとしても人気があることが分かります。
客演となるアダム・レヴィーンは、ご存じマルーン5のボーカルですが、私としてはマルーン5の楽曲、MVともほとんどご縁がないものの、「Stereo Hearts」は彼の歌声なしには存在しえない程マッチしており、MVのほうでもいわゆる「映える」風貌のため、彼を客演に迎えたことは大正解かと思っています。
さて、「Stereo Hearts」のMVですが、(上にも書きましたが)影遊びのバリエーションが豊富で飽きさせないばかりか、影遊びばかりだと単調になるところ、アダム・レヴィーンがショップのブラウン管で登場したり、哀愁漂う街並みの風景を差し込んだりと、MV全体としてもバランスが取れた優れた作品として仕上がっています。
しかも、これだけ工夫された映像にもかかわらず映像が強くなりすぎず、しっかり楽曲が前に出ているところが「MVは楽曲のためにある」という私のMVの定義に則って(のっとって)いるところもお気に入りの所以(ゆえん)です。
この「Stereo Hearts」は楽曲もMVもお気に入りですが、ジム・クラス・ヒーローズの楽曲で一番のお気に入りは「Cupid's Chokehold」です。
残念ながらMVとしてはリピートすることがほとんどないものの、ついでと言ってはなんですが、せっかくなので紹介させてもらいましょう。
ジム・クラス・ヒーローズの「Cupid's Chokehold ft. Patrick Stump」です。どうぞ!
この「Cupid's Chokehold」は、2005年にシングルとしてリリースされた楽曲で、彼らの最初のビックヒットとなっています。(ちなみに、今のところNo.1ヒットは「Stereo Hearts」で、この「Cupid's Chokehold」は2番目のヒットとなります)
「Cupid's Chokehold」は、私の考えを変えた楽曲でもあり、それは「サンプリング」に対する概念です。
この「Cupid's Chokehold」はスーパー・トランプの「Breakfast in America」をサンプリングしていますが、サンプリングと言っても「そう言われてみれば...」というレベルのものから「ほとんどそのままやん!」というレベルのものまであります。
そして、この楽曲はまさしく後者と言えますが、決して悪いというワケではなく、しっかりオリジナル部分の存在感もあり、全体として素晴らしい楽曲として仕上がっています。
この「Cupid's Chokehold」を聴いてからは、サンプリング元の楽曲を大幅に変更せずに取り入れ、それにオリジナルを付加することで新たな楽曲としてリリースすることもアリだな...と思うようになったのです。(逆にそれまでは、ほぼそのまま取り入れている楽曲は「パクリ」という認識でおりました...)
そういう意味では、私のサンプリングに対する許容量を広げてくれた楽曲でもあります。
余談になりますが、スーパー・トランプの「Breakfast in America」にも少し思い出があります。
「Breakfast in America」はアナログレコード(アルバムというかLP)を持っているのですが、1979年のリリース時ではなく、2~3年後に日本橋で購入しました。(詳細は忘れましたが、大型家電量販店の中でワンフロア丸々レコード売り場があった店舗と記憶しています)
当時、輸入レコードは、主に梅田の「LPコーナー」と三宮の「Mr. Jackets(ミスター・ジャケット)」、そして堺東のショップ(店名は失念...)で購入していましたが、輸入ではなく正規版のレコードは日本橋の家電量販店のレコード売り場で購入していました。
当時高校生だった私は「Breakfast in America」をラジオか何かで聴き、『この曲、なんだろう?ぜひレコードを買いたい!』と思ったものの曲名が分からず、困り果ててその日本橋の店舗でなじみの店員のお兄さんに「この曲、分かりますか?」と記憶しているメロディーを口ずさみ、「ああ、その曲ならこのアルバムに入っているよ」と教えてもらって購入したのが、スーパー・トランプの「Breakfast in America」のアルバムとなります。
今ではスマホのアプリで口(くち)ずさんだメロディーから楽曲を検索するサービスがありますが、当時はそんなイケてるアプリはもちろん、スマホすらないので(それどころか、携帯電話自体がない時代です)、ヒトに頼るしかないワケですね。
ちなみに、LPコーナーや輸入レコードショップの話も別連載でチラッと書いているので、ご興味ある方はご覧ください。(LPコーナーがチラ書きされている回⇒「アート・オブ・ノイズはジャケットもアートだ!」、関西の輸入レコードショップがチラ書きされている回⇒「やっぱりザッパは観るより聴くのが一番だ」)
メチャクチャ余談が長くなってしまったので、本題に戻しましょう。
影で遊んでいるMVとして、影遊びがメインで、ほぼ影遊びだけで押し通しているMVがあり、それが次に紹介するMV。
リンジー・スターリングの「Shadows」です。
最初から最後まで影を前面に押し出したMVとなっています。
モノクロの画面と言うこともあり映像の印象付けは強くないのですが、かといって楽曲が前面にでているかというとそうでもなく、MVというのは難しいなと痛感します。
リンジー・スターリング(Lindsey Stirling)は、2005年から活動しているUSのアーティストですが、以前本連載で取り上げたことがあるので、アーティストの紹介はそちらをご覧ください。(過去の回はコチラ⇒「キュートなリンジーに対抗できるのは、往年のMEGだけだ!」)
この「Shadows」は、楽曲のタイトルからしてそのまま「影」なのですが、MVもそのまま「影」をテーマとして制作されています。
楽曲の印象も暗く、MVの映像もモノクロで、かつ印象付けを促すような特殊効果などもなく、全体的に落ち着いた(地味な)MVとなっています。
「影(Shadows)」にこだわって制作されたことは重々分かるのですが、全編「影」のみのため、どうしても単調になってしまい、「影」が活かされていないようにも思えますが、皆さんはどう思われるでしょうか?
逆に「影」を少しだけ取り入れることで、MV全体に「差し色」のような効果を出しているMVがあります。
それが最後に紹介する「影遊びMV」。
エステルの「American Boy Feat. Kanye West」です。
エステルが踊り、そのエステルの影が本人とは違った動きをする映像が数か所ありますが、全体の中での割合は少ないものの、他の映像とは違うテイストになっているため、いわば「差し色」としての効果を出しており、技ありのMVとなっています。
エステル(Estelle)はイギリスのミュージシャンですが、実は「American Boy」のMVは以前本連載で紹介したことがあるのです。
同じMVを紹介することは極力避けているのですが、今回は以前の回と違うテーマのためご容赦ください。(過去の回はコチラ⇒「モノクロのエステルには艶がある」)
前回この「American Boy」のMVを紹介した際には、モノクロの濃淡によるエステルの艶っぽさや、映像構成の妙による完成度の高さを絶賛しましたが、影の使い方も計算された結果と言えます。
というのも、影以外の場面では登場人物のアップや全身が画面いっぱいに映っている映像がほとんどですが、影の場面だけは引きの映像でエステルが画面の半分程度の大きさとなっており、明らかに他の場面とは余白の割合が違います。
加えて、影の場面の前後には黒を基調とした映像かつ黒の割合が多い映像で、影の映像は白の割合が多い映像のため、その差が印象付けに役立っています。(しかも、影の映像の白背景も、真っ白ではなく微妙なグラデーションになっているのも極端な照度の切り替えを避け、過度な印象付けをしないための工夫と言え、もう脱帽です!)
今回あらためて「American Boy」のMVをじっくり視聴しましたが、美術作品とでも言えるほどの美しい映像だなと感嘆しました。
この素晴らしいMVを制作されたのはSyndrome(シンドローム)という映像制作集団で、「American Boy」のMVをリリースした2008年は当たり年となっており、以前この連載でも紹介したT-Painの「Freeze」や同じくT-Painの「Chopped N Skrewed」など神懸った(がかった)MVをリリースしたのも同じ2008年となります。
あらためてSyndromeが制作したMVの特集を組みたいなと思っています。
(T-Painの「Freeze」を紹介した回はコチラ⇒「嫌いな要素ばっかりでも、ついつい見てしまうこのMVは何なんだ?」)
今回の影を効果的に使った3つのMV(とオマケの1つのMV)はいかがでしたでしょうか。
「影遊びMV」としてはジム・クラス・ヒーローズの「Stereo Hearts」がオススメですが、エステルの「American Boy」は影遊び関係なく超絶オススメのMVですので、ぜひぜひご覧ください。
ではまた次回に。
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