ビヨンセのウイスキーとグレンドロナックのセミナー
先週の木曜日、ちょうど8月15日のお盆の日に東京神田にあるディアジオ・モエヘネシーの本社ビルで、6時からスペシャル・オンラインテイスティングが開かれた。それがモエヘネシー・ルイヴィトン社(LVMH)の新商品、「サーディヴィス」のお披露目であった。
プレゼンしたのは同社のマスターブレンダーで、グレンモーレンジィとアードベッグ蒸留所の統括責任者でもあるビル・ラムズデンさんで、同社としては初となる唯一無二のアメリカンウイスキーだった。しかも、それはハリウッド俳優でミュージシャンでもあるビヨンセとのコラボ。彼女の要請でもあったという。
「ある人物の要請でこのプロジェクトはスタートしました。私はウイスキーの世界ではそれなりに名が知られていると思いますが、その人物は控えめに言って私以上に、いや世界的なビッグネームです」。そう言って始まった1時間のセミナーだったが、そのウイスキーを実際にテイスティングし、そのボトルも見せられたあと、「このウイスキーはライ麦51%、大麦麦芽49%というマッシュビルで造られた、いわゆるアメリカン・ライウイスキーですが、蜂蜜のような豊かなアロマ・フレーバーが特徴。ハニービーはまさに、その人物そのもので、このウイスキーはその人物の誕生日である9月4日に発売されます」。
これがヒントというわけだが、ハリウッドスターで、世界の誰もが知るアーティストとなると、見当もつかない。ましてやアメリカを象徴するライウイスキー。ジャパニーズウイスキーが大好きというヒントから、トム・クルーズなどを想像したが、最後に明かされたのが、ビヨンセだった!!
そのウイスキーが昨日(8月21日)に情報解禁となり、ようやくこのブログでも書くことができるというわけだ。当初、2万円台後半と予測した価格も11,550(税込)と、リーズナブルで2重に驚いた。これだと、あっという間に売り切れてしまうかもしれない。それにしてもウイスキーは世界的なミュージシャンや大スター、そして格闘技のチャンピオンなど、様々な人物とコラボしている。アイルランドのチャーチ・オブ・オーク蒸留所はU2のボノが創業者の一人だし、アメリカではボブ・ディランも自身の蒸留所を立ち上げている。
総合格闘技の元世界チャンピオン、コナー・マクレガーもアイリッシュの「プロパーナンバー12」という自身のブランドを持っていて、これはアメリカでは人気ナンバーワン。驚いたことに、ブッシュミルズのボトリングラインで、現在はボトリングが行われている。
と、ウイスキーの世界は驚くことばかりだが、そういえば週明けの8月19日の月曜の昼の3時から西新宿のホテルで、グレンドロナックのテイスティングイベントが開かれ、そのゲストとして私が登壇した。12年、15年、18年のパッケージ変更にともなって、マスターブレンダーのレイチェル・バリーさんが来日し、私と二人でテイスティングを行うというもの。グレンドロナックは、ベンリアック、グレングラッサとともに2016年にアメリカのブラウンフォーマン社が買収したもので、レイチェルさんは2017年から、その3つの蒸留所のマスターブレンダーに就任している。
もともと故ジム・スワン博士のお弟子さんで、その後グレンモーレンジィ、そしてモリソンボウモアとキャリアを積み、ブラウンフォーマンがスコッチに進出したのを機に、そのマスターブレンダーとして招ばれたもの。ベンリアックのリブランドで、すでに彼女の力量に感服していたが、今回のグレンドロナックでは、彼女のシェリー樽に対する知見を伺うことができて、非常に興味深かった。モーレンジィにいた時の師匠がビル・ラムズデン氏で、考えてみれば、そのキャリアを通して、”樽のパイオニア“としての実績を築いてきたのだろう。
それにしても、バカルディのステファニーさんといい、ブラウンフォーマンのレイチェルさんといい、このところの女性マスターブレンダーの活躍は凄いものがあると、改めて思わされた。ガロアのテイスティングで、ノックニーアンをやったが、ブレンダーだけでなく続々と、女性の造り手も登場してきているのだ。