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『チーズじゃなくて、アイラブユー』が生まれた日。 - 完結編 -

写真家 MiNORU OBARA

『チーズじゃなくて、アイラブユー』。私、MiNORU OBARAが写真を撮るときのみならず生きる上でも大切にしている言葉。それが生まれた日のお話、最終回です。

 こんにちは。写真家のMiNORU OBARAです。本日は『チーズじゃなくて、アイラブユー』が生まれた日のお話の後編、完結篇です。

 前編中編をお読みになっていない方は、まずはこちらをどうぞ。

 さて、星空の夜から数えて3日目の夕方に出会った子どもたちの村にさよならを告げて宿に戻った頃、すっかり夜は更けていました。

 僕は、宿のベットの上で、今回の旅を振り返っていました。

 そもそも、今回カンボジアに足を運んだのは、カンボジアでの撮影プロジェクトがキャンセルになったのがきっかけだったこと。本来ならば今頃は、撮影チームと食卓を囲んでいたかもしれないということ。僕のカメラのメモリーカードとノートパソコンは、遺跡を背景にポーズを決めるモデルさんかっこいい写真でいっぱいになっていたはずだったということ。そしてそれはファッション紙の表紙とまではいかなくとも、見開きページを飾るようなそんな写真たちであったはずだということ。

 その辺りまで考えて、僕は目を閉じました。

 そんなことは、なんだかどうでもよくなっていました。

 大きなベッドと小さな机だけの簡素な部屋の間接照明は、僕を簡単に眠りに誘いました。それでも眠りにつくかつかないかのギリギリのところで、さっき出会った子どもたちの笑顔が頭に浮かんだことだけは、よく覚えています。もしかしたら目を覚ました時には忘れてしまっているほどの深い深い夢にも出てきていたのかもしれません。

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 そして迎えた翌朝。カンボジアでの滞在は残すところあと2日でした。

 僕は次の日の夜のフライトで帰国することになっていました。

 帰国の前日も僕は、宿からずいぶん遠くに足を伸ばしました。果ては首都まで続く国道6号線をかっ飛ばしました。車の座席に座っている時間の方が長かった、そんな1日はあっという間に暮れていきました。

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 そして、また次の朝がきました。この旅でのカンボジアの最終日。夕方には空港に向かわなくてはならなかったので、この日は、宿の近くで時間を潰すことにしました。

 朝から市場を歩いて回り、川辺で寝そべってまどろみました。地元の人に教えてもらった屋台で昼食を摂りました。また川辺のところでのんびりしました。

 それでも、心のどこかに、2日前の夕方に出会った子どもたちのことがひっかかっていました。

「次は、いつ帰ってくるの?」
「う〜ん・・・。明後日ぐらいかな。」

 この会話が何度も頭をよぎりました。
 その「明後日」は、今日になっていました。

「あの村に、もう一度行ってみようかな・・・。」

 そんな逡巡を重ねるうちに、太陽はとっくに傾き始めていました。

 宿からその村までは、急いでも片道1時間半。フライトの時間を考えると、村へ向かうならもうギリギリの時間でした。

 すると、傾きかけた太陽を突然黒い雲が覆い隠し、瞬く間に大粒の雨が降り始めました。

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 突然の土砂降り。この時期のカンボジアではよくあることでした。

 僕は、ずぶ濡れ覚悟で宿まで走ることにしました。

 その時です。

「ヘイ!アミーゴ!」

 後ろの方から大きな声が聞こえてきました。

 それどころではない僕は、土砂降りの中を走り続けました。

「ヘイ!アミーゴ!」

 また大きな声がしました。その声は、僕を呼んでいるようでした。

 僕は、傘がわりに頭の上に持ち上げていた両腕を下げて、声の方を振り返りました。

「ヘイ!アミーゴ!」

 その声の主は、トゥクトゥクドライバーのRAさんでした。

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 RAさんは、僕をトゥクトゥクの幌の下に招き入れ、雨宿りをさせてくれました。

「お前にもう一度会いたいと思ってたんだよ!嬉しいなぁ!」

とRAさん。

「雨が上がるまで、ここで休んでろよ。」

と笑うRAさんに、僕は意を決して告げました。

「ちょっと連れて行ってほしい場所があるんだけど。しかも、大急ぎで。」

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「それギリギリだぞ。」

と言いながらヘルメットを被ってくれたRAさんは、弱まり始めた雨の中、トゥクトゥクを走らせました。

 細いタイヤは水を切り、激しく軋みました。

 やがて大きな道に出た頃に、雨は上がりました。

 僕はトゥクトゥクの硬いシートに身をまかせ、大きなエンジン音を聞くともなく聞いていました。

 なので、エンジン音に紛れて聞こえていたRAさんの叫び声に気がつくのに少し時間がかかりました。

「おい!アミーゴ!見てみろ!」

 そう叫びながら、RAさんが指で示したその先には、大きな虹が架かっていました。

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「これでよかったんだな。」

 その虹を見た瞬間に、僕はなぜかそう思いました。

 村に着いたのは、もう引き返さないと空港に間に合わないというほどの時間でした。

 トゥクトゥクを降りた僕は、2日前に子どもたちと出会った場所に大急ぎで走りました。

「2日前はたまたまあの場所にいただけで、今日はいないかもしれない。」

 今更ながらにそう思いました。

「ここにも雨が降っていたんだな。なら、子どもたちは家の中で、あの場所にはいないかもしれない。」

 ぬかるんだ道を走りながらそんなことを考えていた時でした。

「本当に来てくれたんだね!」

 大声で僕に駆け寄って来てくれたのは、あの子どもたちでした。

 子どもたちが抱きついてくる寸前。僕は、カメラを向けました。

 喜びと心配と安心がごちゃ混ぜになった奇跡のようで必然のような、そんな気持ちで一枚だけシャッターを切りました。

 ひとことで言うならば、それは「アイラブユー」でした。

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『チーズじゃなくて、アイラブユー』は、こうして生まれました。

 それまで、たくさんのライトを立てて、かっこいいロケーションの中でモデルさんにポーズを指示して、必死に作り込んできた写真は、僕にとっての「写真」ではありませんでした。

 僕の求める写真は、知識なんてなくても、ライトなんてなくても、むしろカメラなんてなくても撮ることができる、ただの日常に隠れていました。

「君が好きだよ。」

 その気持ちが、最高の写真を産むのです。

 そんな気持ちは、背伸びしない普通の日々に溢れていて、それは、神様が僕たちに与えてくれた最も美しい芸術です。

 それを教えてくれたのは、村の子どもたちでした。

 だからね、一眼レフであろうと、スマホであろうと、瞳であろうと関係ない。知識もライトもいらない。あなたが見つめる愛する誰かに「好き」を感じたその瞬間、あなたは立派な写真家です。きっと僕なんかより素晴らしい写真を残せる写真家です。

『チーズじゃなくて、アイラブユー』な瞬間は、そこら中に溢れています。

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 そうそう、僕に一番大切なことを教えてくれたこの村の子どもたちと僕とは、その後、家族になります。

 毎月村に帰っては、同じ屋根の下で暮らしています。

 いまは、世情が世情なので、海を越えることができないでいますが、それでも心は繋がっています。

 この世情を乗り越えたら、真っ先に抱きしめに帰る、大切な大切な家族です。

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 本日も文末までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 また次回の記事でお会いしましょう。

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