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詩集・小瓶の蝙蝠

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#ことば

どこかの戦争

どこかの戦争

青年がその弾丸を胸に受ける時
彼は愛を感じたであろうか
その弾は敵の故郷の人々の 愛であふれていた

収集された鉄くずに込められた 愛
ゴム製品に込められた 愛
ベーコンの油に込められた 愛
国の為に戦う愛しい人々へ 向けて込められた
ただ単に 純粋な 愛
それらを使って造られた
愛にあふれた弾丸は
同じように人を愛する青年を貫いた
その愛は戦争という名の殺人行為により
脆く 滅びた
それを愛と呼

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鈍い感触の 直感的な愛情

鈍い感触の 直感的な愛情

道化の心の闇の深さは はかり知れない不気味さを併せ持っている
わたしが体中を煮えたぎる血のようにして欲すとき
あなたは幾分か離れた場所に突っ立って 傍観者になる
その心理戦みたいな距離感がいたたまれなく嫌で 嫌で 嫌で
躍起になってそれを抉ってやろうと思う
痛めつければ痛めつけるほど あなたは美しさを増して
心持たぬビスクドールのように 虚ろなまなざしで
わたしを見透かす
わたしをこぼす
わたしを

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迷路

迷路

うつろに閉じたその瞳の奥は 空っぽ
からっぽの死体は私をそっと抱きしめた
そういう風にあなたは笑う
だから そこに私はいない
存在だけがただ悲しい 曖昧な響きで突き刺した
あなたを欲し もっと知りたいと願うも
その肉体と魂はどこかへ 散歩
もう永遠にあなたを知ることもできないし
互いに迷路に迷い込める人たちに
真摯な嫉妬をおぼえる
私には迷い込む場所もない
ゴールのない 永遠の漂流者
閉鎖され

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墓標

墓標

優しかった父はどういう顔をして 祖母に金を無心したのだろう
笑顔の絶えなかった祖父はどういう気分で 祖母を殴ったんだろう
鬼の形相で私を叱る母は どんな仕草で男に欲情したのか
雨の日傘もささずに川面に佇む女は どうやって父を虜にしたのだろう
手袋を淑女のように握る祖母は 何を思い子を置きざりに男と逃げたのか
あの日わたしはどこにも存在しなかった
わたし不在の世界ですべてが周り
面白いように混沌とし

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さくら、散る

さくら、散る

きみの事を考えていたんだ
あの日 手紙をくれた きみの事を
意外と達筆で その文面すら優しくて
ほのかに香る まだ見ぬその地の微かな気配を
ぼくはそっと吸い込んだ

きみの事を考えていたんだ
すい星のように現れて
花火のように散っていった きみの事を
名も知らぬ きみの事を
画面越しの きみの事を

ハンドルネームに託された 春への思いは一緒で 寂しく
桜の季節になると 散るまで感傷に浸ってた

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