シビックテックと教育 2020ver.
Stop Schooling,Don’t Stop Leaning
-学校に行けなくても学びを止めないで-
台湾・韓国のシビックテッカーと一緒に登壇したCode for All Summit・Code for Japan Summit・g0v Summit(台湾で2年に1回開催されているシビックテック のカンファレンス)に登壇し、各国の教育デジタル化について話しました。「Stop Schooling,Don’t Stop Leaning」はそこで提示していたタイトルです。話していた内容に詳細を加筆してまとめてみます。(これは、Civictechのアドベントカレンダーの12/16の記事です。)
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教育デジタル化が抱える問題①(ハード:学校の設備)
臨時休校の最中、文科省はYouTubeで全国の教育機関向けに「学校の情報環境整備に関する説明会」として、端末とインターネット環境の配備を学校に求めていた。
そのなかで、通常の対応や常識にとらわれるなというメッセージがあり、
今は前代未聞の非常時・緊急時なのに危機感がない。
ICT、オンライン学習は学びの保証に大いに役立つのに取り組もうとしない。
使えるものはなんでも使って、家庭のパソコン、家族のスマホ
できることから、できる人から、「一律にやる」必要はない
既存のルールにとらわれず臨機応変に、「ルールを守ること」が目的ではない
何でも取り組んでみる。現場の教職員の取り組みをつぶさない
赤文字と太文字を交えて掲載されていた。裏返すと通常の学校が一律でなければ、ルールを遵守しなければということに囚われて、アップデートできていなかったことを示している部分でもある。
これにより5月時点で教育委員会・学校には予算を前倒してでもいいから早急に手配をと号令が出ていたものの、7月時点での整備状況は、「全児童生徒1人1台整備している」と回答した自治体は、小学校で1.9%、中学校で3.3%といずれも1割に満たないことが、日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)の発表で示されている。(児童生徒用タブレット端末、1人1台整備の自治体は1割未満 /ReseEd) また、8月の文科省の発表では、
教育用端末の仕入れ先となる事業者の選定を終えている自治体は全体の48.4%。残る49%も年内には選定を終える見込み。一方で、実際に端末が納品された自治体は2%にとどまり、納品完了時期が21年1月以降になる自治体が70.2%を占める。7つの自治体では20年度中に納品が間に合わない可能性がある。
とある。つまり、事業者選定はしたけど、今現在も端末が子どもに届いていない状態が7割を超えていることになる。(GIGAスクール構想の実現に向けた調達等に関する状況について/ 文科省)
このハードウェア配備の少なさと遅さが、学校側の課題としてあげられる。
教育デジタル化が抱える問題②(ハード:児童の使用)
つぎに、端末に対する受け取りて(児童)の環境がある。先日宮坂さんもTwitterで引用されていた資料にある通り、PCの普及率の問題がある。
日本は各国の子供達のPC利用率・PC普及率が上がる中、唯一の「PC利用率が下がっている国」だ。子どもたちは受動的にコンテンツ享受のプラットフォームとしてスマートフォンを多用し、情報を能動的に探しインプットしたり、学んだことをアウトプットしていくためにPCを使うことが少ないことが推測される。また、家庭に置いてあるPCもコロナのリモートワークで保護者の仕事が優先された結果子どもが自由に使えなくなっていた可能性が高いとされている。
学校が提供しておらず、また子どもたちも使いこなせていないのがハードウェアの問題である。
教育デジタル化が抱える問題③(ソフト:セキュリティ過敏)
次に、ソフトウェアの課題がある。日本の行政・公的機関は「疑わしきものは徹底排除」することでセキュリティを保つことが多い。個人情報流出したサービスは禁止、海外にデータが保管されるサービスは禁止、学校のパソコンはインターネット接続禁止…基本的には全てを断つことで守っている。
先日シビックテック のイベントで登壇されていた登さんの発表資料が非常に面白かったし、この考えを教育界隈の皆さんと合言葉にして、子どもたちの学びの環境を早急に実現したいと思ったのがこのフレーズだ。
ガバナンスの本来の意味は「有限な資源と時間を最適配分して、最も高効率にする」こと。リソースを配分してマネジメントをうまくやれば最適になる。日本では「問題がゼロであること」をガバナンスと捉えていて、生産性が考えられておらず、誤って解釈されている。
登さんのシン・テレワークシステムは、それまでの過程に複数の登さんの大冒険が残した成果物や経験があって実現したものであり、全ての安全性を守り抜いて行動していたら出現していないものでもある。
民間のEdtech企業やできたばかりのスタートアップ、私たちのようなシビックテッカーが集まって作ったものは、もちろん「完全」ではない可能性はゼロではない。しかしながら、完全なものしか提供できないで待っていると、子どもたちのICT教育のチャンスはどんどん失われてしまう。
教育デジタル化が抱える問題④(ソフト:言語の壁)
最近個人的に感じているのが、言語の壁である。Khan AcademyにもCourseraにも日本語版は出ているし、自動翻訳も便利になっているものの、韓国や台湾の学生が英語で発信されている情報にリーチしているのに比べると、日本の学生は日本語での情報収集に留まる割合が多いように見受けられる。
少し前の調査ではあるが、武蔵野大学の新入生に対して行われた調査では、
「英語で実現できたらよいと思うことのうち、1 つだけ選ぶとしたらどれか」では、全体の 61% である 697 名に及ぶ学生が「1. コミュニケーション(外国人と英語でコミュニケーションを図る)」を選択、次点は、その 4 分の 1 の割合の 15% が「3. 資格(TOEIC の点数を伸ばしたり、英検などに合格する)」。
学校での詰め込み教育でえられていないオーラルコミュニケーションへの意識が強いのに対し、
「英語で何をしたいか(2 番目)」を問う質問では、回答が分散した。全体の 24% にあたる 273 名が「5. 趣味(映画、音楽、芸術、スポーツなどの自分の趣味に、英語を生かす)」を選択し、22% にあたる 255 名が「3. 資格(TOEIC の点数を伸ばしたり、英検などに合格する)」を選択。
「5. 趣味」、「3. 資格」、「1. コミュニケーション」の選択肢で 67% を占めており、「4. 仕事(英語を使った仕事につく)」は17% にあたる 201 名、「2. 情報収集(英語で何かを検索したり、ウェブサイトでニュースを
視聴する、など)」は 9% にあたる 102 名であることをみると、英語学習の第 1 目的を仕事や情報収集の手段として考えている学生はそれほど多くないことがわかる。
日常レベルで仕事や学習に英語を活用しようという意思が低いことは見受けられる。
昨年台湾に訪問し、唐鳳さんにヒアリングさせてもらったときにも感じたことだが、台湾は教育指針を大きく切り替え、グローバルスタンダードの上にどうつくっていくかという前提で進めている。
これが私たちの新しいカリキュラムの基本理念であり、10年前のものと大きく異なっているだけでなく、東アジア圏の多くのカリキュラムとも異なっています。むしろ、フィンランドやスカンジナビア諸国の施策に近しいので、台湾においては大きな変化となります。
(会いにいける大臣。教育インタビュー1)
日本人留学生が世界で少ない問題もだが、国内にいても英語(≒外国にある情報)にリーチしていないことにも問題があるように見受けられる。
課題点まとめ
①学校側のハード(端末ない)②生徒側のハード(PC使ってない)③学校側のソフト(セキュリティガチガチ)④生徒側のソフト(日本語の限られたコンテンツにしか辿り着けない)という四重苦がコロナを前にして突きつけられた日本のデジタル教育の課題だったと感じています。
課題点と現状共有で前半が終わってしまったのですが、ここに対して私たちが何からやったのかが後半の「おうちで時間割」についてになります。
(後編へつづく)