パソコンのファンの、キュイーーーーーーンという甲高い声で目が覚めた。
いつも隣で猫みたいに丸まって、時々鼻をすすりながら眠っている彼女の姿はなかった。
珍しい。俺が眠っている間に起きることなんてほとんどないのに。
どうせしばらくしたら勝手に寂しがって、俺の背中に額を擦りつけに来るだろう。
アイツの所在など確かめようともせず、携帯電話をいじり始めた。
俺の周りには、常に一定数、飼い犬のような女たちがいる。
首輪をつけた覚えもないのだが、気づけば近くにいて、呼べば尻尾を振ってやってくる。
こちらの気が向いたときに餌を投げてやればいい。いたってシンプルな動物だ。
アイツも例外ではない。
とにかく手がかかるが、俺は面倒を見てやっている。
俺のところに来てからは、他の男たちといた頃よりも安定している。
それはきっと、俺がアイツのために口うるさく生活習慣や考え方について進言してきたからだろう。
昨晩だって、日付が変わる前には睡眠導入剤を飲ませ、布団に入るように言いつけた。
一緒には眠っていないが同じ家にいるのだ。気配くらいするだろう。
そういえば、何か話があると言っていた気がする。
薬も飲んだ後だったので明日にしろと言った。
いつもなら3ターンくらいで諦めて布団へ行くのだが、昨晩は妙に食い下がった。気の強い女だ。
下唇を噛み、目頭にうっすら涙を浮かべながら深呼吸をするアイツの姿が浮かんだ。
仕方ない。たまにはご機嫌取りでもするか。
寝室を出てもアイツの姿はなかった。
「なんだよ、人がせっかく…」
ぼやきながら座椅子にドカッと座り、煙草を手に取る。
それは、ご丁寧に4つに折られ、煙草の下に置かれていた。
ルーズリーフに書かれたそれは所々しわになっている。
俺には見せなかった涙だってことか?
灰皿を壁に投げつけた。
大きな音を立てても、不安げな濁った視線は感じられなかった。
俺はただ、煙草に火をつけることしかできなかった。