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ジャズ・ミュージシャン達も大ピンチ!

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ニューヨークでロックダウンが始まってからのミュージシャン同士の会話は、元気にしているか、毎日何しているのかといった話から、失業保険がもらえたか、政府の金銭的補助(stimulus checkなんて呼び方をされている)の小切手は届いたかどうかの確認、やがて就労ビザの話、そして今後の音楽活動へと自然に話は流れていく。特に、今後の音楽活動の話には、情報交換の域を超えて、活発な意見交換に発展する。(特にお酒が入るとね!*wink, wink*)

想像はつくと思うが、ジャズクラブでお客さんに囲まれて演奏をするという光景は当面ありえないという見方が、ミュージシャンの共通の認識、そして危機感に思う。Pre-Covid-19の話として、ジャズのメッカ、ニューヨークに於ける「ジャズの生演奏を聴く」行為の持つ価値が「ジャズのアルバムを聴く」ということの価値を数値的にも、体感的にも上回り続けてきていた現実*、そしてミュージシャンの持つ「ライブで演奏することが、この生業の真髄」という本音な部分を踏まえれば、楽観視しろというのが無理難題に聞こえる。自分たちの表現活動のあり方、そのものを模索していかなくてはいけない大転換期に居合わせてしまった今、当面の生計の立て方もさることながら、仕事としての音楽、芸術としての音楽の両方の面を、これまで以上に意識し、遣り繰りして前進していかなくてはいけない状況になったということだろう。

例えば、仮にニューヨークのロックダウンが一時的にでも終わった際(一時的に←ここ、ポイント!)、ビジネスが段階を経て通常営業の形態をとり始め、ライブハウス、ジャズクラブ、バー、コンサートホール等(以下纏めてジャズクラブ)にも演奏許可が下りたとしよう。「その日」までジャズクラブが生き残っているかどうか?これは言い換えれば、単純にビジネスとしてジャズクラブが成立するかどうか。「その日」まで自分たちミュージシャンが持ち堪えられるか。

例えば、3月頭まで普通にできていた演奏活動ができなくなった直後から、俄然増えてきている音楽家の演奏ストリーミング。無料、有料、投げ銭、ソロなりデュオなり、まあ多くてもトリオの編成で自宅から演奏をストリーミングしたり、マルチチャンネルのコラボや様々。今後の展開として、段階を追ってビジネス活動が許されていくペース次第では、無観客でライブハウス等から聴かせる**といった、リビングルームからジャズクラブへの箱の移動もあるだろう。ただ、如何せん先行き不透明なわけだから、ひとつのシナリオとして、今の状態が長期化し、ストリーミングを介しての演奏を見せ続けた際、どの程度の観客がその映像、音響、映像体、音楽に満足し続けていけるのか、30分なり45分なりのライブストリーミングに例えば$10というチャージをつけたとして、顧客満足度的な視点で長期的に成立するものなのかどうか。もちろん、そうするのが悪いとか、そういう野暮な観点ではなくて、極めて興味深い部分だ。これが無料だった場合の行く末も同様に興味深い。また、単純に考えて、ものすごい人数のソロ・アクトが旗を揚げたような状態なわけだから、その競争状態を考えただけでも、どこかで飽和状態に陥るだろうし、その日は案外近いと睨んでいる。

はっきり言って、考えるべきことというのは、こんな程度ではない。しかしながら、ジャズに未来はあるのか?と敢えて問うならば、ワタシ自身としては「ある」と考えている。もちろん、現状が一夜にして好転することも、全てが3月以前の状態に戻ることはあり得ないと腹をくくっているし、今まで以上の努力も必要と思うが、ぶっちゃけ、ジャズに未来はあって然り!と信じて疑っていない。では、我々に今何ができるのか?だ。そう、「すべき」論は必要なくて、「できる(できそう)」のアイディアこそが必要で、それらのアイディアを俊敏に「実行」にうつすことを迫られている。Try and Errorを繰り返しでも。
(life goes on.)

もう少し、この話は掘り下げて書いてみたい。

*米国RIAA (Recording Industry Association of America)の2019年のアメリカでの録音物の売り上げデータ。参考までに挙げると、ストリーミングの売り上げが79%に対して、CDは10%で、音源のダウンロードが8%といった数字。これは全ての音楽ジャンルの数字で、ジャズ音源の売り上げではないし、当たり前ながら輸入の録音物は数値に含まれていない。
因みに、アメリカに於けるジャズの音源の売り上げは、全てのジャンルの音源売り上げの1.1%と言われている。このマーケットシェアの数値はstatistaというデータ会社による2018年の市場調査に基づく数値。”ジャズはアメリカで生まれた音楽であるにも関わらず、現在最もアメリカで人気のない音楽”と称される所以。(そのくせ、ニューヨークを訪れた観光客は、ニューヨークと言えばジャズ、やっぱりジャズの生演奏聴きたい、とアメリカ一人気の無い音楽をご所望になるんだが。ま、厳密に言うなら3月頭までの傾向、か。笑)

**日本では待機命令が緩いこともあって、実行しているクラブもあるようだけれど、現在、ニューヨークでは行われていない。

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