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クリエイティビティとの線引きが非常に難しい"cultural appropriation (文化の盗用)"。専門家を雇ったジェイミー・オリバーは、他文化の人たちに不快感を与えずに創作を続けることができるのか。

イギリスのカツカレー・ブームに関しては以前ここでも書いたし、まだまだ出てくる、頓珍漢な商品に関しては、在英のカツカレーポリスの皆さんが目を光らせてくれているので、お任せするとして...。


サンデー・タイムス紙によると、英セレブ・シェフのジェイミー・オリバーは、 "cultural appropriation (文化の盗用)"専門家を雇っているそうだ。(注:直訳すると「文化の盗用」となるが、ここでは、悪用という意味のみではなく、文化無知に起因する類のものや、意図せず文化所在国の感情を逆撫でしてしまった場合も含む)

過去に、 "punchy jerk rice"という名前で、自身のブランド品を発売したものの、伝統的ジャマイカ料理のジャーク・マリネに使われる材料をほとんど使用していない、という批判を浴びたこともあり、現在は、"文化の盗用専門家"チームが、同じ過ちを犯して同シェフが非難の矢面に立たされないように、常に確認作業を行っているというのだ。

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" jerk "と呼べるのは、チキンとポークのみで、ジャーク・ライスは存在しない、という批判も。

2018年に "punchy jerk rice"を発売し、非難囂々だった時の記事。オリバーは、ジャマイカ料理からインスパイアされて開発したレシピだと弁明している。実は2014年にも、西アフリカ料理、"Jollof rice"のレシピを全く違った材料で発表し、やり玉に挙げられている。

同記事には、オリバーのほかにも、ピッパ・ミドルハースト(BBC "Britain's Best Home Cook"の優勝者で、白人でありながら、東、東南アジア料理のレシピ本を出版している)もこき下ろされたりなどしている、と書いてあるが、逆に、サルディニアに移住したイギリス人、レティシア・クラークのイタリア料理レシピ本は、非常に丁寧にサルディニア料理を扱っており、現地の人たちからも好評だという。「徹底的に調べれば調べるほど、郷土料理がその人たちにどれだけ重要で、貴重かということに気付いたのです。もし引用を誤ったり、スペリングを間違えたりすれば、そこから論争が起こり、最終的に人々を怒らせたりする起因にもなるのです」とクラークは語る。

だから、かく言う私も、ここイギリスでカツの入っていないカレーをカツカレーと呼んだり、寿司のネタが赤ピーマンだったりすると、怒りと失望が怒涛のように押し寄せてくるのである。


英セレブ・シェフ、メアリー・ベリーのレシピ本の中に、カツカレーのレシピが。しかし、よく読むと、カツカレーの名前の由来に関して「カツカレーの名前はその発祥した地域名から来ている」と。どういった経緯で製作者にそのような情報が入ったのかを知りたい。


タイムスマガジンの夏のスープレシピ特集。うどんがスープにカテゴライズされることにも驚きだが、具が枝豆と生のサーモン切り身なのはありえない。わさびが付いていればいいという問題でもないだろう。これはこれで美味しいと言えればアリかもしれないが、試してみたいとも思えない時点でアウトだと思う。


"cultural appropriation (文化の盗用)"は食だけにとどまったことではない。日本に限ってみても、2019年6月、米セレブリティのキム・カーダシアンが、自身のシェイプウエア(補正下着)ブランドを「Kimono」と命名したことに波紋が広がった。

事態を受け、京都市は公式サイト上に門川大作市長名義の文書を公開。商標登録出願しているブランド名を再考するよう求めた。カーダシアンはその後、ブランド名を変更している。


こちらも随分話題となった。これを日本代表としている時点で、文化の盗用以前の問題では。2021年12月12日、イスラエルで開催されたミス・ユニバース世界大会の決勝。日本代表が着用した「伝統衣装」があまりにも的外れだったため、SNS上で批判的な声が挙がった。襟は「左前」、袖には日の丸が半分プリントされ、両手に「招き猫」、そして露出した胸の部分には「日本」という手書き?の文字が。

私は海外に住む日本人として、「日本」という国が様々な理由や状況において話題になるのは、とても良いことだと思っている。日本に行きたい、日本食が好き、日本のファッションが好み、歴史に興味がある、、、、などなど、これらの話題はいつでもウェルカムだし、できれば知りうる限りで情報を提供したい、とさえ思う。なので、逆に間違った概念や情報を聞いたら、その都度訂正するし、説明も加えるようにしている。

「文化の盗用」というのは、歴史、文化、宗教的な意味合いがある伝統を、その意味を理解せずに、単に響きがよいから、単に可愛いから、単に金儲けができるから、という理由で、ファッションやトレンドまたはビジネスとして使う行動を指す。

しかし、私は、その料理に日本名がついている場合、日本文化と歴史を理解して、リスペクトされていれば、外国人が作る日本食でも、全く問題はない、と思っている。20年以上も前になるが、スピタルフィールズ・マーケットで手作りの豆腐を販売している外国人の男性がいた。行く度にいろいろと話を聞きたかったのだが、職人肌(?)なのか、あまりお話してくれた記憶がない。しかし、豆腐は美味しかった。学生の身分だったので、少し割高な豆腐を頻繁に購入することはできなかったが、「文化の盗用」と思ったことはなかった。それどころか、単純に凄いな、と感動すらしたし、何よりも豆腐愛が感じられた。



国際交流、文化交流がすすむにつれ、他文化との融合が起こるのは避けられないことのように思える。文化の盗用への批判を恐れるがあまり、製作者がクリエイティビティを損なってしまっては、業界は成り立たないだろう。「入念なリサーチをして、リスペクトを持った上で他文化を扱う」のが理想なのだが、食にしても、ファッションにしても、音楽にしても、そのインスピレーションの元となった文化の人たちを制作過程に参加させ、綿密に議論し、納得が得られた上で世に送り出す、というのがベストなのではないだろうか。








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