社会復帰に向かって

 「お友達とお店やるから10時半ぐらいに来て」という母からの要望に応えるために半年振りぐらいにゴミ出しに余裕で間に合う時間に起きた。布団の誘惑を振り切るために、起きてすぐ顔を洗って、何とか眠気を吹き飛ばして身支度を整える。

外に出た瞬間、ぽかぽかした陽気と午前中特有の白っぽい陽の光が身体を包む。思わず笑みが溢れるほどいい天気。「すっかり春だなぁ」と思いながらお店に向かうこと20分。友達とやるだけだからこじんまりしてるという話からかけ離れた繁盛振りのお店を発見。行列でてんやわんやの中、何とか注文をして無事に商品をゲット。遠くから作業をしながら声をかけてくる母のせいで無駄に注目を浴びながら席に着く。「ここに座って」と指定された席に行くと、隣の席には約10年ぶりぐらいに会う“はとこ“がいた。久しぶりすぎて気まずい空気が流れるが、そこは大人な対応で何とか乗り切った。

お店で出しているのは母達の手作り料理だ。初めて食べるが本当に美味しかった。食べた瞬間姉と「うまっ」と顔を見合わせるほど美味しかった。周りのお客さんも「美味しい」とニコニコしながら食べていたので、身内の贔屓目ではないことは確かだ。

「来るお客さんのほとんどが知り合い」と母が言っていた通り、本当にほとんど全員顔見知りのようだった。そのせいで母と顔がよく似ている姉と私は「あらっ!娘さん?よく似てるわ」という声を今日だけで1年分ほどかけられた。ただ「三姉妹みたい」という一言は母しか嬉しくないので出来れば控えて欲しいと思う。

あまりの繁盛振りに回転率が落ちる店内。本人達もここまで一気に混むのは想定外だったようで、嬉しい悲鳴が段々本気の悲鳴に変わっていた。食べ終わった食器を下げに行くと「ちょっとレジやって」と急なアルバイト要請。そのまま本当にレジをやることに。長らく休業していた接客モードと外面を一瞬で取り付ける。ブランクがあるから出来るか不安だったが、意外と何とかなったので良かった。ただ途中で解放される、忙しい今だけのピンチヒッターという予想を裏切って、完売でお店が落ち着くまでレジを打ち続けることになるとは思わなかった。私、食器を返しに来ただけなのに。

結局閉店までお店を手伝って、気付けば15時。気を取り直して、当初の予定だったビーズを買いに行く。姉と一緒にビーズアクセサリーを作ってお店で売ってみるため、気持ち多めにカゴに入れていく。その量にちょっと怖気付き「ちょっと戻す?」と言う私に対し、「これが一銭にもならないなら戻すけど、そうじゃないと思うから戻さない」と姉が1つも戻すことなくレジに持って行った。かっこよかった。

ビーズを買った後は、ほとんど飲まず食わずでレジを手伝って痛む胃を慰めるためにコメダ珈琲店へお茶をしに行く。味噌カツサンドとミニシロノワール、ミルクコーヒーと蜂蜜ウインナーを注文。姉と半分こして食べる。さすが逆詐欺のコメダの量だが、2食ほど抜いている状態だから食べ切れた。蜂蜜ウインナーは初めて飲んだが、甘党の私には少し甘味が足りない。お砂糖は1袋以上入れることで力を発揮するという持論があるが、今回は蜂蜜と手を組んだのか1袋で甘くなった。私にとってはちょうどいい甘さだったが、量が半分以下になった時に蜂蜜ウインナーを飲んだ姉は甘さで咽せた。私は辛味には弱いけど、甘味には強いようだ。

コメダ珈琲を満喫した後は、ヨシタケシンスケさんのエコバッグのガチャガチャを回して帰る。ガチャガチャは欲を見通すのか自分が欲しいと思うものは出ない。が、誰かのために欲しいという欲には出てくれる。欲しい柄が出なくて落ち込む私を見て「欲しがる妹のために」と回した姉に出たことでその説を確信した。

美味しいものを食べて、欲しいガチャガチャも譲ってもらってほくほくした気分で家に帰る。その帰り道の途中、珍しく誰もいない公園を見て、姉が「ちょっとブランコ漕いで行こう」と言い出した。その提案に二つ返事を返し、夜がほんのりはじまり始めた公園で2人並んでブランコを漕いだ。ほんの5分ほどの寄り道のつもりが、久しぶりのブランコの楽しさに夢中になり、15分ほど遊んだ。楽しかったけど、ブランコで酔ったので三半規管の衰えを痛感。同じく酔って項垂れる姉と筋トレをすることを決意して家に帰った。

久しぶりに働いたせいか、歳下のはとこが週6でバイトしていると聞いたせいか、働く意欲が湧き出てきた。休業中、ずっと家にいて楽しい予定しか外に出なくなり、働くことが億劫で怖く感じていた。が、今日まだまだ意外といけることが分かったことで、社会復帰への兆しが見えた気がする。


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