「次会う時までに進化しててね」なんてポケモンじゃあるまいし

薄ら明るくなる部屋で糸にビーズを通し続ける。今日帰る母へのプレゼントとしてビーズリングを作っていた。ほぼ徹夜状態だけど、何とか無事に出来上がった。プレゼントは買ってすぐ渡したいタイプなので、朝待ち合わせの駅で会った瞬間に渡す。霜焼けで腫れているらしく中々はまらず、結局当初予定してた指ではないところにピッタリはまった。が、どこにもはまらない悲しい現実にならなくてとにかく安心。自分の指にはめた指輪を何度撫でながら「ありがとう。すごく嬉しい」ととても喜んでくれたので良かった。

電車に揺られることきっかり1時間、着いた駅は立川。ほとんど来たことがない場所だ。でも、どこかで見覚えのある感じの駅前。高島屋やISETANを通り過ぎて、高架下の少し薄暗い道を一直線に歩く。10分ほど経って着いたのは「PLAY museum」。今日は母と姉と私の3人で「ぐりとぐら展」を観に来たのである。『ぐりとぐら』は幼い頃母がよく読み聞かせしてくれた絵本で、母自身も幼い頃に読んだという世代を越えた思い出がある作品だ。

再開発されたばかりで綺麗な美術館。色んな美術館に行ったことがあるが、ここは初めて。至る所に木の温もりを感じる。

何時からでも入れる入場券だったので、まずは腹ごしらえをしに館内のカフェへ。なんと『ぐりとぐら』の絵本にも出てくカステラパンケーキが数量限定で食べられるらしい。日曜日に数量限定というワードは心拍数を上げる原因にしかならないので早めに注文することに。他にもたくさん展示内容に合わせたメニューがあったので、3人で相談しながら決める。悩んだ末に、カステラパンケーキ、プリンアラモード、大人のお子様ランチ、チリコンカンライスを注文し、3人で分け合うことにした。
注文したものが続々と運ばれてくるが、どれも美味しそうで見た目も素敵。全部違うものを頼んだので見栄えもいい。特にお目当てのカステラパンケーキは絵本で見たものの縮小版。こういうのはテンションが上がるので好きだ。記念に写真をパシャパシャ撮ってから食べる。

切り分けるためにカステラパンケーキへナイフを入れると、何の抵抗もなくスッと入って驚いた。柔らかいというより溶けて消える感覚。真ん中に近い方は信じられないくらいふわふわで、外のちょっとカリッとしたところは鳩サブレの味。多すぎるんじゃないかと思ったほどの人生で初めて見る大きさで正方形に切られたバターが最高にいい仕事をする。プレーンの状態が美味しすぎたので、ほとんど付属のメープルシロップやイチゴソースかけなかった。
勿論カステラパンケーキ以外の料理もすべて美味しかった。3人で分け合うことで飽きることなく、最後まで美味しく食べられた。

腹ごなしをして、展示を見る準備はばっちり。近年当たり前になってきたQRコードチケットで入場。『ぐりとぐら展』以外にも『どうぶつかいぎ展』というものも観られるらしく、入ってすぐの所ではゾウ、ライオン、キリンのぬいぐるみが会議中。元々ある『動物会議』という絵本をテーマに、色んなアーティストさんがアートを制作してリレー形式で展示しているようだ。そのため章ごとにガラッと印象が変わる。『どうぶつ会議』という絵本が題材なので、一見可愛らしくユーモラスだけれど、実は絵本の内容は戦争を止めようとしない愚かな人間を痛烈に批判する物語なので、真面目で暗い部分もある。第二次世界大戦の後に描かれた絵本が今の世界の現状にピタリと当てはまっていて、皮肉にも今こそ観るべき展示になってしまっていた。可愛らしい絵柄をオブラートにし、描かれた戦争や大人たちへの痛烈な批判が、大人の階段を登り始めている身に刺さり、「可愛かった」だけでは終われなかった。

『どうぶつ会議展』を観た後は、当初のお目当ての『ぐりとぐら展』へ。途中入場券代わりなるシールを落とすというハプニングが発生。1度目は母の肘にくっ付いて事なきを得たが、2度目は見つからなくて、新しく貰うという事態になったが、こちらも何とか入場できた。体験型美術館という名の通り、普段行くような美術館では絶対出来ない、触れたり、通り抜けたりといった行為を通じて、絵本の中の世界を実際に自分も体験している気持ちになれた。特にカステラのコーナーにあった滑り台が楽しかった。美術館で滑り台を滑るなんて機会があると思わなかったし、そもそも何年振りかも分からない滑り台を滑れるのが嬉しかった。口コミで滑りが悪いと書かれていたが、全くそんなことなかった。むしろ滑りすぎるぐらいで、危うく先に滑った母に衝突するところだった。姉も思った以上にスピードが出たせいで滑りすぎてカーブで頭を打っていた。大人だと子供より体重があるから美術館の想定以上のスピードが出ているのかもしれない。とても楽しかったので3回滑り、初めて美術館で髪がボサボサになった。本当に楽しかった。

そんな感じで美術館を満喫した後は商業施設内を少しぶらぶら。昨日母のお店で買ったお菓子を皆んなでつまんだり、タイミング良くやっていた蚤の市を覗いたりした。天気が良いおかげで外を歩くのが苦じゃなかったのがラッキー。

ひとしきり見て回った後は、母を新幹線の駅まで送る。「夕飯も一緒に食べよう」と母が誘ってくれたので、喜んで着いていく。朝が早かったので、電車内で全員うとうとしながら、新横浜へ向かう。お昼が洋食だったから夜は和食がいいということで、晩御飯は和食の居酒屋で食べることに。お刺身や田楽、お茶漬けなどを食べた。特にお通しが美味しかった。始め、お通しがもっちり豆腐と聞き、豆腐が食べられない私は顔を顰めたが、試しに一口食べると本当に美味しかった。私が唯一食べられる豆腐である胡麻豆腐によく似ている。お陰で何だかんだ言いながらも完食できた。また今回まだこの3人で肝臓を使ってないということで、お酒も飲んだ。美味しいご飯とお酒でお別れ直前に楽しい時間を過ごせて良かった。

そろそろ新幹線に乗らないと向こうに着いてからの電車がなくなるので、解散することに。「新幹線のホームまで見送るよ」と母に言うと「泣いちゃうからダメ。来ないで」と断固拒否されたので、改札前で別れを告げる。前回同様何度も振り返ってバイバイと手を振る母。母にとって、いつまでも離れ難い娘なのは純粋に嬉しい。また会う日まで元気でねの気持ちを込めて姉と一緒に手を振り返した。


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