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ショートショート ゴンゾー兄さんと言う大きな木

エピソード35配信しました


そして、今回もナミンがショートショートを書いてみました

 「ゴンゾー兄さんと言う大きな木」

バス停までの舗道わきにそびえ立ってる一番大きな木を
私は勝手に「ゴンゾー兄さん」と名付けてる
木の名前はわからないけど
冬になったらハゲ坊主になるからきっと落葉樹の一種なんだろう

元気な時は話しかけもしないのに、
後ろから誰かに背中をポンと押されたら泣き出しそうな夜や
一歩あるくにもウーンと意志のチカラがいるユーウツな朝は
兄さんに話しかける
「つらいわ~」とか「いややわ~」とか「ストレス半端ない」とかって

そんな自分勝手で気分屋の私にゴンゾー兄さんは低いテノール声で
「大丈夫や、起こることをただ受け入れたらいいねん」とか
「かまへん、かまへん、たいしたことない」とか
「考えても解決せんときは降伏せよ」とかって返してくれる
樹齢200年は越えてそうな木の言うことは
含蓄があり有無を言わさない説得力がある

ゴンゾー兄さんは平常心が具現化したような存在である
冷たい雨が降るグレーな朝も
セミの合唱がうるさいカンカン照りの午後2時も
耳をつんざく雷が轟く夕方も
猛吹雪で枝が落ちまくりの長い夜も
同じ場所に泰然と立っている
根は見たことないけど、深く太く地球の裏側に到達しそうな勢いで
地底まで張っているんだろう

その日、私は最低な気分だった
世界中が秘密裏に企んで
私に集中的に意地悪をしてるに違いない、そんな気分だった
任されていた仕事でまさかのチョンボをし、
ランチに食べた豚汁をオキニのスカートにこぼし
デートの約束を彼の残業でドタキャンされ、
トイレで鏡を見たら1本、あろうことか伸びた鼻毛がヒリョロロロ

帰り道、いつもと変わらない表情のゴンゾー兄さんを
見たらむかついて八つ当たりした
「冬で葉っぱは全部、落ちて
 裸でリスも鳥も遊びにきてくれへんようになってるのに、
 よくそんなに泰然と立ってってられますな」って嫌味を言ってしまった

それでも機嫌を損ねることなしに大物ゴンゾー兄さんはこう言った
「自分、ええ歳になってきてんのにまだまだ青いな。
 寒い冬に葉っぱが全部、落ちるからこそ、
 春になったらイキイキとした若葉やいい香りのする花が
 咲いてくれるねん。
 ツルンツルンと若葉と花はセットやねん
 何年もオレのこと見ててわからんかった?
 でな、寒い年の方が花は大きく咲いて、
 もっといい香りがするねんで」そうほくそ笑んだ

そっかぁ、ちょっと演歌の歌詞みたいやけど 
寒い冬ほど春に美しい大きな花が咲くなんていい話やん
毎日、いろいろあるけど、まぁいいか そう思えた
私は殊勝にゴンゾー兄さんに「ありがとうございました」
とお礼を述べゆっくりお辞儀をしてから
コンビニでソルトキャラメルとピーカンのアイスを買ってうちに帰った

川野さん 旭川は雪

エピソード35は寒さが苦手なバクと
まぁまぁ寒さには強いナミンが防寒について話しています

お味噌汁にショウガとすりごまを入れながら
家族の顔を今更ながらに見つめながら想いながら
寒くても野外で頑張ってる木や花に挨拶しながら

聴いて下さったらうれしいです


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