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夢見る頃を過ぎても


今回は豆と小鳥はなしの止まり木#5の創作小話をupさせていただきます。
作:ナミン
朗読&サムネ:バクでお届けさせていただきます。

youtubeとポッドキャストはこちらからになります。




ついにこの日がやってきた。
半年前に案内のメールが届いてから、
人間、具体的な目標があるとなんとかなるもので
地道な努力のおかげで2.5キロの減量は成功した。
何を着ていこーか?髪型はどうする?
バッグは?アクセサリーは?と言う本人以外には
全くどうでも良い悩みはリサーチと熟考を重ね、
なんとか納得のいくものをピックすることができた。
目指すところは「ギラギラのどや!勝負服」ではなく、
「普段からこんな感じなんですぅ~」的なさりげないオトナのお洒落さん。
これも私以外は誰も気にしていないこともよーくわかってる。

そう、今日は
今年、還暦を迎えた昭和39年生まれの
私たちの同窓会が開催される。
30歳の時以来、30年ぶりに高2のクラスのみんなが集まるのだ。

今回の同窓会で「人からどう見られるのか」を60歳の今でもこんなにも気にしてる滑稽でお茶目な自分にプッと吹き出しそうになった。
幸せそうだと思われたいのか?
歳より若く見られたいのか?
いけてるじゃないかと思われたい?
特に同じ女性からどう評価されるのかが気になるのよ~。
そして私も彼女たちが
30年後の今、どーなってるのかが気になるのよ。
対抗意識なんだろーか?
それとも単に私は人生に退屈しているんだろうか?

会場のホテルの隣のカフェのトイレで念入りに化粧直しをする。
横の鏡には孫くらいの年齢の若い女の子が
これ以上ないくらい真剣な表情でメイクを直している。
ヒアルロン酸たっぷりのプクプクのお肌。
このおばちゃんにも少し分けていただきたいものだと思いながら、
ほうれい線に白粉が溜まらないようにパウダーのパフをはたく。


30歳の時の居酒屋での同窓会は参加者が多く、
担任のP先生もお越しいただき盛会に終わった。
みんなそれぞれの人生をがむしゃらに生きていた。
P先生は「こんな風に同窓会に声をかけてもらえるんが教師冥利に尽きるんよ」と優しい象のような目を細めて笑い気持ちよさそうに酔っ払い、
2次会ではクラスメートの知り合いがやってる小さなスナックに行き、
私はユーミンの「真夏の夜の夢」を歌った。

帰り道、その大昔、片思いをしていたY君と2人きりで電車に乗る運びとなった。その時、私はハッピーな新婚妻だったので今更Y君とややこしいことになる気は微塵もなかったけど、それでもちょっとドキドキしてうれしかった。大阪まで行くのになんとなく暗黙の了解でわざと時間のかかる普通電車に乗ったら車両には私たち2人のみだった。

久々の再会とちょっとだけ飲んだお酒で気分が高揚しておったのか
「私、高2の時ね、苦しいほどY君が好きやってんけど、Y君、私よりずーっとかわいいSちゃんと付き合ってたから、こりゃ仕方ないなぁって諦めてた。それも今は切ない青春のいい思い出ですわ」とサラリと言うと、
Y君はビックリしたのか飲んでいた缶コーヒーを車内で吹いた。
それからは何を話したか覚えてないけど、
大阪で話しの続きをしようと誘ってくれたY君を残し、私は新大阪で下車して夫の待つ新居に帰った。あの時の糸をひくよーなA君の視線と閉まる電車のドア、動き出した電車の風景はなんか昭和のニューミュージックの歌詞のようだったので、いつまでも覚えている。

あれから30年の時は過ぎ、
あと15分少々で私はA君とクラスのみんなと再会する。
あんなに自意識過剰に前のめりに張り切っていたのに、
直前に突然、今のまんま自然体の自分でいこーっと思える。
この30年間、山あり谷あり、私なりに一生懸命生きてきた。
そのまんまでいいじゃないか!かっこをつけることはない。
その方がださい。
肩のチカラを抜きココロを開いて話しをしよう、話を聞こう。
きっと今日はいい一日になる。


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