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嘘つき

夏休み明けに高校をやめた。反対する父親が納得いくように「夢があるから」と、説得した。疎遠になっていたあの中学の時の彼が、美容師になると風の噂できいたから、あたしもなりたいと、そう錯覚した。

無理を押し通し17歳で実家を離れ一人暮らしをし専門学校へ通った。姉も実家を離れ大学に通う年で、姉の同級生の同郷の人たちとつるむようになった。同じ美容師を目指す人とすぐ付き合うことになった。

年上なのにかわいい人だった。口角がきゅっとあがって猫のようなふわふわの髪の毛で色が白く、甘えてくる。

ある日、電話をすると後ろから女の声がする。彼は酔っぱらっていて適当なことを言っている。

またある日、家の掃除をしていると彼がほかの女性と抱き合ったりキスをしてるプリクラをみつけた。問い詰めると「付き合う前のやつだ」という。首にはあたしがあげたネックレスがついていた。

またある日、明け方酔っぱらって帰ってきた彼の首にキスマークが5つもついていた。「なんかついてるよ」というと、甘えてごまかされた

またある日、「あー今女が横で寝てるから」と言われた。

二股だった。それ以外にあたしのところへいない日はいろんな女といたようだ。そして、その男にも「別れよう」と言われた。

またあたしは、そんな男にさえ泣いてすがる。手首をザクザク切り、「二番目でもいいから。なんでもするから」そう言って、彼をつなぎとめる。一生懸命、一生懸命気持ちを伝えて2年半付き合って彼の実家にもいくようになった。でも彼の浮気性はなおらなかった。あたしの心はすきだらけだった

成人式であの中学の時の彼と再会し、浮気した。

ほんとうにまだ好きな気がしていたけど、浮気が両方にばれてあたしが選んだのは中学のときのあの彼ではなかった。でも浮気性のあの彼はあたしのたった一回の浮気を許すことはなく、別れた。

中学のあのときの彼にはボコボコにされた。車から引きずりおろされ、ドアミラーに顔面を何度もぶつけられた。「仕方ない」そう思っていた。

浮気性の彼を引きずって毎晩車で家の近くに通った。専門学校は卒業だけしたけど、また男に狂っていたあたしは学校へ行かなくなっていて、「思ってたのとは違った」そういうことにしていた。

振り向いてくれない彼をよそに、中学のときのあの彼がまさかあたしに振られるなんてと思ったのだろうか、ボコボコにしたあとしばらくして「好きだ」と言ってきた。あたしはまだあの彼が好きだよというと、それでもいいというから、頻繁に会うようになった。彼は卒業してあたしより2年遅く専門学校に通っていた。半分同棲みたいな感じであたしの家に住むようになった。彼は学生でお金がなかったから飲み屋に行くよう言われ、飲み屋で働いた。彼が学校へ行かずパチンコばかり行きだしたのには気づいていた。

消費者金融でお金を借りていて、あたしが働いて返していた。要求されるお金が増えてだんだん苦しくなってくると彼は頻繁にきれるようになり、あたしを殴った。壁に体をぶつけられ、ひたすら大声で怒鳴りちらし、殴る彼を無抵抗に落ち着くまで待っていた。あたしは泣かなかった。

クリスマスの日、朝早く起きて彼と久しぶりに出かけようとシャワーを浴びていると、彼は起きてくるなりお風呂場へすごい勢いで入ってきて、シャワーの先でまたあたしをひたすらに殴った。

「なぜきれてるんだろう。あーあせっかくお出かけしようと思ったのに」

あたしのからだはあざだらけだった。でも何も思わなかった。

早く終わればいいのに。裸でびしょ濡れのままそう思っていた。

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